あまね

英国王のスピーチのあまねのネタバレレビュー・内容・結末

英国王のスピーチ(2010年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

エリザベス女王の父親、ジョージ6世の物語。
人の前に立つ王族でありながら、酷い吃音症で声が出ない。
そんな彼と、彼の治療を行う言語療法士との友情を描いた、史実に基づく映画だ。

王族であることの悩み、トラウマ、課せられた責任の重さとそれに潰されそうになる心が、ジョージ6世から言葉を奪っていた。
第二次大戦へと向かい緊迫する世界情勢の中、兄エドワード8世が『王冠を賭けた恋』で退位することとなり、ジョージ6世は、いよいよ追い詰められていく。
言語療法士のローグは、医者として彼を治療するのではない。
例え王族といえど対等な関係を築くことを求め、互いを家族のように呼び合い、友として寄り添うことで患者の心を解そうとしていった。
やがて、二人の間には身分も立場も超え、友情と信頼関係が結ばれていく――

観ていて、とてもあたたかい気持ちになる物語だった。
映画の冒頭で国民を落胆させてしまったほど酷いスピーチは、ラストでは多くの人の心に響く素晴らしいものに変わっている。
そのスピーチを行うジョージ6世の傍らに《友人》としてローグの姿が在るのが、とても微笑ましかった。

映画の殆どは、吃音症の治療だ。
努力して、失敗して、また努力して――そんな繰り返しの中に、王の交代、開戦といった緊迫した世情が織り込まれている。
けれどスポットが当たっているのが吃音症の部分なので、そこまで英国の王室事情を覗くわけでもなく、当時の世界情勢に踏み込むでもなく、案外あっさり見ることができた。
ローグとジョージ6世の友情も、実に抑えて描かれている。
派手な演出はなく、ただ少しずつ距離が縮まり、いつの間にか傍らにいる存在になっているという渋い雰囲気だ。
分かりやすく熱い友情をイメージしていると、肩透かしを食らうかもしれない。
大人向けの抑えた演出の物語だと感じた。

ところで、冒頭の酷いスピーチで始まり、ラストの成功したスピーチで〆るのは後味の良い演出だが、成功したのが開戦時のスピーチという点で、なんだかすっきり感がだいぶ薄れてしまった。
大成功です、素晴らしいです、おめでとうと言われても、戦争だしなぁ…と素直に喜べない。
しかしよく考えれば、あの大戦におけるイギリスは『侵略者を止める正義』という立ち位置になっている(そう考える英国民が多いだろう)。
私の目線とはだいぶ違うことに気づいて、ああなるほどと納得した。
『正義を守る為の戦争のスピーチ』を成功させる――その流れなら、違和感はない。
私はどうにもお尻がムズムズするが、そこは文化の違いと割り切った。

また、本筋とは関係ないが、エドワード8世が想像していた以上にダメな感じで、『王冠を賭けた恋』という言葉に踊らされていた自分を笑った。
今まであまり知らなかった部分なので、今後色々と読んでみたいと思う。
エドワード8世の血は、確かに現英国王室の血だよなぁと、チャールズ皇太子と夫人との騒動に重ねて笑ってしまった。

長さも内容もちょうどよく、さらりと見ることができる面白い作品だった。
あまね

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