Mayuzumi

元禄快挙余譚 土屋主税 雪解篇のMayuzumiのレビュー・感想・評価

3.6
「生前の不幸の数々は、
 お傍近う参って御詫び申し上げとう存じます」(本編より)

 十平次(林長二郎)には三人の女がある。
 母と妹と、太夫の三人である。
 三人の女との別れが、雪につれてひとつずつ解きほぐされて、何となし討入の場面に、そこはかとない紅白粉のなつかしみを与えている。本差を振るう十平次の背中には、亡君以上に、別れてきた三人の女の姿が見えるようである。女たちの存在のなかに討入を見出す、という発想は、長二郎の女性的な演技も相まって、映画の艶かしさを保証しているようにも思われる。
 例えば、太夫との別れの場面で、羽織を着させるために十平次は太夫に背をむけてやるのだが、それを嫌がった太夫が正面をむくよう遠回しに伝えるシーンや、別れ際に母と自分の名まえの彫られた位牌を太夫に渡すシーンなどは、地味ながら、珠玉の演出であろう。又、出陣前に弓の調子を確認する十平次が、弓の撓んだ刹那に、回想風に、矢場のシーンを挟むところの絶妙のカッティング。つれて祭囃子とくるくる回るお面が余韻のように、討入前の十平次の心に侘しく降りてくるのである。
 一方、討入時に、となりで、主税(同じく長二郎)がひとり、BL漫画をはじめて読んだ童貞のようにぷるぷる興奮している姿も見所のひとつである。深作の『赤穂城断絶』(1978)では三船が主税の役をやっているが、まったく違う主税となっているので、見比べるのも面白いと思う。三船の演技は言うまでもなく骨太の男気で、泣けるのだが、長二郎のそれはほとんどエクスタシーを感じているがごとき声音で、別の意味で泣けるのである。


(補遺)
 ディスクプランと、コスモコンテンツの二社からDVDが発売されているが、後者の方が(前者に比べたら)圧倒的に画質・音質ともに状態がよいと思われる。現存は60分。オリジナルは8巻=約80分。
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