近松門左衛門「心中天綱島」の映画化で、舞台演劇と人形浄瑠璃と歌舞伎が一体となったような斬新さ極まる演出。いかにもATG。
監督は篠田正浩。脚本は篠田監督×富岡多恵子×武満徹という豪華な組み合わせ。武満徹の音楽も素晴らしい。
先日亡くなった中村吉右衛門さんが25歳と若いです。監督の妻である岩下志麻さんが28歳で吉右衛門との恋とエロスと情念を演じる。
黒子を取り入れた演出が独特の雰囲気で、黒子や遊女は天井桟敷(寺山修司主宰)が演じているのも豪華。
「心中天綱島」は実話を基に近松門左衛門が書いた人形浄瑠璃の傑作で、心中ものであれば「曽根崎心中」の方が有名かもしれないけど、今作の方が深みがあって面白い気がします。とはいえ、私の知識はNHK時代劇ドラマ「ちかえもん」でかじった程度ですけど。
原作に忠実でありながら、書き文字の背景や鳥居での首吊り、墓場での情事、舞台チックな長回しなど、演出とカメラワークがキレッキレです。
妻のある男が女郎と恋仲になり心中を遂げるという、いかにもって内容だけど、後半で男の妻(岩下志麻が女郎と妻の2役を演じている)が出てきてから、がぜん面白くなった。寄り添って逃げて行くさまは、人形浄瑠璃の描写とそっくりで感動さえ覚えました。