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グラン・トリノのcinemakinoriのレビュー・感想・評価

グラン・トリノ(2008年製作の映画)
4.9

“私の心は安らいでいる”


長年連れ添った、世界最高と誇らしく讃える最愛の妻に先立たれ、自身もまた患いを実感し、“死に方”と“生き方”を同時に考える日々を送る偏屈な老人コワルスキー。
朝鮮戦争徴兵での自らの行いやそこでの経験によるトラウマやPTSDで、ある意味意固地なまでに身内すらをも遮断することで心の拠り所を求めてきた“孤独感”や“罪悪感”を抱える、繊細で奥行きの深すぎる役所を、クリント・イーストウッド監督自らが熱演。

作品序盤、レイシストで胸糞感すら覚える程の悪態っぷりのコワルスキーに、こちらもとことん翻弄され、孫娘がコワルスキー爺さんにいちいち発する“ムカつく!”発言に賛同してしまう。
しかしながら、ある日文化も人種も異なる一族が隣家に越してきた事によって起こる日常の様々な変化やある事件を期に、頑固じいさんの心情の変化へ我々も否応なしに引き込まれて行く。
実に奥が深くてメッセージ性の高いヒューマンドラマだ。

どう言う訳だか、勝手なイメージが先行してずっと観て来なかった事を後悔。
イーストウッド主演→復讐→血みどろの図式を勝手に想像してしまっていた。
いい意味で物凄く裏切られた作品であり、また別の意味では、大変ショッキングなイーストウッド作品の一つとして今後も記憶に残り続けるだろう。
衝撃的な結末であるにもかかわらず、希望に満ちたラストシーンは、イーストウッド監督らしさが目一杯注ぎ込まれている。


名車“グラン・トリノ”
作品の中では1972年製とある。
私自身も1972年生まれということもあってか、終始妙な親近感を抱いてしまったせいで、かなりの贔屓目で作品を観続けてはいたものの、それをしょっ引いたところでこの作品への評価や感想は何ら変わらない。
とにかく素晴らしい作品。

生や死について、頑固なまでに自身の正義を貫くコワルスキー爺さんの姿に敬礼しかない。

今後、何遍も観返す事になりそうな名作にまた一つ出会うことが出来たこの充実感は、紛れもなく“人にお薦めしたくなるような良作だ”という事を声を大にして言い表したい。
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