「やめるやめるこれで最後詐欺」が既にカワイイ域に入ってきているイーストウッドが、これが最後の出演作と言い出した最初の作品w
彼がレオーネやシーゲルの元で演じた男や自ら監督したキャラクター達の集大成とも言える、最高にカッコいい男の映画と思う。主人公のウォルトはイーストウッドが演じ、監督するからこそ輝いた。
朝鮮戦争での自分の犯した行いをトラウマに抱え、最愛の妻に先立たれ、子供たちからは疎まれている初老の男、ウォルト。
彼の隣にモン族の一家が越してきたある夜のこと、彼の愛車グラントリノがガレージから何者かに盗まれようとしていた。
てなところから物語は始まる。
戦争が無くならない限り生まれ続ける退役軍人の問題、移民と人種間差別の問題、アメリカの銃社会、そしてSNSで顔色を窺っては綺麗な言葉ばかり並べて本質を見ようとしない現代の我々。ここに描かれるハードで憂鬱なメッセージは、今なお古ぼけるどころか辛辣に胸に突き刺さる。
有名なラストシーンは必ずネタバレ無しでの鑑賞をオススメしたい。個人的には映画史に残るエンディングのひとつとして生涯忘れられないものとなっている。ということをまず伝えたかったので、ここからネタバレありとさせていただきまする。観ていない方は観てから帰ってきてね!
🚙 🚙 🚙 🚙 🚙 🐟
イーストウッドの名作のほとんどが、深い余韻を伴って締め括られる。中でも本作のエンディングは、全映画史上においても記憶に残る大余韻だ(なにそれw)
おそらく亡くなった奥さんの言いつけを守り続けた家庭内禁煙を破り、大好きなタバコを風呂で吸う。身だしなみを整えるフリをして親友の床屋にいつもより多めの冗談を言い、少しだけ多めの支払いをする。
戦場やフォードの工場勤務では必要のなかったオーダーメイドのスーツを作る。言葉の通じない老婆に愛するワンコを託す。
神に懺悔するのは、妻に隠れて別の娘とキスをしたこと、私物を売って脱税したこと、そして息子たちとの付き合い方が分からなかったこと。最初の二つは彼なりのジョークとしても、子供との確執をずっと気に病んでいたことは同じ父親として胸が詰まる。さらに映画では描写されなかったけれど、彼はグラントリノの相続先を遺書に書き残した。
余命いくばくもない身体、その具体的な内容は観客には知らされないままに、彼は自分の身を犠牲にして友の望んだ復讐を遂げる。
これを自殺、逃げと捉える人も多いことだろう。カトリック始め多くの宗教が自殺を禁じているけれど、キーマンとして登場する神父とのやりとりからも、決してキリスト教を疎かにしているのではなく、むしろ他人のための自己犠牲は咎められるものではない。
そもそもは怒りに任せてタコ殴りに行った自分のせいということもあるし、朝鮮での人殺しへの贖罪の意味もあるのかもしれない。このことについて彼が教会で懺悔しなかったのもそのためだ。
周りの人たちにできることはなかったのだろうか。隣人は、神父は、警察は?けれどそんなキレイゴトを並べたてて傍観しているだけのボクに、彼の選んだ選択を責めることはとても出来ない。
ただ彼の生き様に想いを馳せて、追悼し、彼が伝えたかった愛や信念を心に留めて明日を生きよう。
だからボクにグラントリノをくださいw