常盤しのぶ

グラン・トリノの常盤しのぶのレビュー・感想・評価

グラン・トリノ(2008年製作の映画)
4.0
偏屈ジジイと生意気なヘタレガキの組み合わせというだけでだいぶ大好き。偏屈ジジイらしい差別表現あるが、本編を観れば観るほど愛おしくなってくる。そもそも息子夫婦からして何の考えなしに金の無心に来るような連中なのだから偏屈になるのもやむなし。

そんな中で隣に越してきたのが有色人種で自分の知らん文化を持っている連中なのだから偏屈に磨きがかかる。ただ、お隣さんは(ババア以外)ジジイが偏屈であろうが気にせず接してこようとする。もしかしたらジジイにとってそれが新鮮、もしくは懐かしかったのかもしれない。全く知らない一族だからこそ偏屈になりようがなく、それゆえに少しずつ心を開くことができたのかもしれない。これが同じ白人一族だったらこうはならなかったと思う。全く知らないからこそ、言葉を悪くすれば好き勝手できたのだと思う。その結果、ヘタレガキの面倒を見て最終的に愛車を託す決断に至ったのだろう。

暴力に屈しそう、あるいは屈しているガキを引き戻そうとする様子は後半になるにつれて胸が詰まってくる。ジジイは殺人という最悪の暴力に屈し続けていたからこそ、ガキの苦悩を理解できるし、それらから解放させてやりたいと思った。

人との真っ当な接し方を教え、働き方を教え、金を得ることの難しさを教え、最期には自分の全てを託し、黙って去る、根っからの職人気質である。日本的に言えば昭和の人間。こういうジジイは世界共通なのだろうか。

本作はガキの成長物語でもあり、ジジイの成長物語でもある。でなければクライマックスでジジイがあのような行動を取るなんてジジイ自身想像すらできなかったと思う。全てを抱え込まずに信じられる者に己の半身を預けることができた。おそらくガキに会う前のジジイは妻にしかそれができないと思っていたのだろう。クライマックスから後日談を経てエンドクレジットにかかるあの終わり方が実に爽やかで気持ちが晴れる良作。

それはそれとして、直接描写はないものの性暴力のシーンがあるので気になる人は注意。