子持ちのカイロレン

日本侠客伝 花と龍の子持ちのカイロレンのレビュー・感想・評価

日本侠客伝 花と龍(1969年製作の映画)
4.0
 大団円を迎えたように見えたシリーズが「花と龍」の原作を借りて続行。現代を舞台に重い空気が漂っていた前作の反動か、時代を明治に遡り楽しいマキノ節が全開の第9作。過酷な労働環境の中逞しく生きる人々の応援歌。シリーズ本来の魅力が復活。
 相変わらず脇のキャストもみんな生き生きしている。津川雅彦も兄に負けじとコミカルリリーフを見事に務めているが、今作はとにかく山本麟一。博打と女好きで仲間思いな分かりやすいキャラクター。見ていて気持ちいい。しかしシリーズ9作目に至っても、殴り込み前の男女の別れが全て名場面になっているのは奇跡的なことじゃないだろうか。撮影直前まで必ず厳しい本直しを行なったマキノ監督の粘り強さの賜物なんだろう。健さんは今作での跪いてお腹に耳を当てる芝居に難色を示したそうだが、結果素晴らしいシーンに。
 あと殴り込みのシーンに関して。マキノ監督は殴り込みに興味がなく演出を任せてたなんて証言もあるが、藤純子の黒田節とともに始まる今作のケレン味に満ちた殺陣はきっと力を入れて撮ったに違いない。監督が好きな歌と踊りを融合させた素晴らしい場面。
 マキノ監督は撮影中に骨折し、一時は撮影中断も危ぶまれたものの動けない監督をみんなが助けなんとか撮影は終了。そんな全力の撮影にも関わらず、監督曰く『日活に女郎のように売られ』シリーズを去ることに。日本侠客伝の次作はなぜか同じ原作でまるで今作のリメイク。監督による違いが浮き彫りに…