垂直落下式サミング

コブラの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

コブラ(1986年製作の映画)
5.0
はじめてみたのは木曜洋画劇場。ティアドロップのサングラスをして、マッチ棒を口にくわえ、仕事中に売り物のペプシを飲み啜り、駐車スペースは前の車をバンパーで押し退けて確保、悪態をつくチンピラはTシャツを破かれる、新聞紙はバーベキューコンロのなかへ、固くなったピザをハサミで切って腹の足しにし、チン寒ロードを激走する。
マリオン・コブレッティ。ハードボイルド小説のパロディ漫画の世界から飛び出してきたような男だ。こんな人間がいるのか。こんな男がこの世に存在するのか。私にとって、これはちょっとした事件だった。これからしばらく、私にとって映画とは『コブラ』のことを指す言葉となったくらいだ。
ストーリーは、カルト教団による連続殺人事件を追う型破りな刑事コブラの活躍を描くポリティカルアクションの様相。殺人現場を見てしまった美人モデルの証人を、コブラが守る。ダーティハリーを意識した社会派アクションだ。
しかしながら、スタローンの主演作品のなかでも抜きん出て暴れん坊なストーリー展開をみせる。「ナイトスラッシャー」と名乗るカルト教団がどんなものなのかは描かれず、単なる反社会集団なのか、思想的な達成目標をもった革命運動家なのかは、ボヤボヤしたままわからないが、いつの時代にも警察官がその場で速やかに射殺すべき悪党はいるだろうと、普遍的な人の世の仁義を描いているのが面白いところ。
凶悪犯罪者の人権だとか、精神病による無罪放免など、法律への問題提起をしながらも、偉そうな雰囲気をまったく感じさせないのが清い。
下劣な犯罪集団のくせに、「新世界の裁き」だのと、お説教を垂れるような口調で他人を踏みにじって当たり前の悪党たちをやっつける。その潔さがとても好きだ。私の一番嫌いは「偉そう」だと再確認。
一刻も早く地獄に落ちなければならないやつらは、オートマチック銃をくるくる回してズボンに入れるようなやつに惨めたらしくぶち殺されればいい。アリエナイザーに粛清を!ジャッジメントですの!
スタローン史としても重要な一作であり、主演のシルヴェスター・スタローンとヒロインのブリジット・ニールセンは、本作の製作直前に結婚し、その公開後1年足らずで離婚するという常軌を逸した高速離婚劇を繰り広げている。ベリーハリウッド!
また、映画のポスターおよびソフトのジャケットのスタローンがサングラスをかけて銃を握るポーズは、当時のアクションスターのライバル同士であったシュワルツネッガーの『ターミネーター』を意識したものであり、敵役のブライアン・トンプソンも顔がシュワルツェネッガーに似ているという理由でキャスティングされたそうだ。確かに似ているし、声もちょっとだけ似ているのだが、初登場時にストッキングを被ったまま喋らない変態の役なので、まったく活かせていないのはご愛嬌。
トラックの荷台に乗り後続車に向けてマシンガンを撃つ場面や、ラストバトルのナイフVSチェーン対決など、スタローンは本作のアクションを『エクスペンダブルズ』シリーズでセルフリメイクしているので、自身の主演作品のなかでもお気に入りの一本なのだと思う。
それにしても、声に出して言いたい名台詞ばかりである。
「健康に悪いぞ。俺はな」
「呪文を唱えろ。“お願いします”ってな」
「法律はここまでだよ。バカが」
どれも日常生活で使いたい煽りパワーワード群だ。