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廃市のJeffreyのレビュー・感想・評価

廃市(1984年製作の映画)
4.5
「廃市」
‪冒頭、駅を通る列車。下車する男。聞こえる水の音、啜り泣き、大家に姉妹、叔母。川に反射する木。水辺に細長い枝をしなやかに垂れる柳、兄の死…本作は大林宣彦が福永武彦の原作を16ミリで撮ったATG映画で俺がこの映画を好きな理由の一つに古き良き日本の夏を感じるからだ。例えば夏の風物詩‬花火、すれ違う浴衣の人々、川で手持ち花火、屋台のアイスを食べ歩きする男女。夏は涼しげに繁る様々な町の描写、ノスタルジックな雰囲気に包まれ、古里を感じる。最早本来の主役かの如く象徴的に映される柳川の山紫水明。彼の尾道三部作のヒットに隠れ、いわゆる小作品とされてきた廃市は正に今の時代‬ ‪ ‪、隠れた傑作と言える。物語は大学生が卒論を書き上げようと死んだ町へ訪れる。そこで旧家の姉妹、義兄と出逢う。そして死にかけている町、退屈な日々を過ごすだけと聞かされる男のミステリー的な日常が始まる…今回三度目の鑑賞をしたが見れば見る程に好きになる。川を渡る小舟、古びた佇まいの景観、‬運河での歌舞伎舞台を舟から見る男女、悲痛な気持を吐く義兄、心中の下り、風前の灯への哀惜…数々の印象的な台詞など素晴らしく美しい。そして列車の描写で始まり列車の後ろ姿で終わる本作は多分声的に監督自身がナレーターしているんだが、川の流れる音、花火の音、妹の笑い声が響く中での原風景、時‬既に遅く互いの気持ちに気付く人の感情…‬
‪人の心を惹きつけ惑わす言わば蠱惑的な姿態は観る者に静かな感動を与える。全編静寂で川音、夏音を強調した廃市は頗る日本的、和を感じる傑作だ。多くの人に観て欲しい日本映画だ。余談だが江口役(学生)の山下規介が今の若手俳優、菅田将暉に似ていると感じた‬。
数年前にYTで観た本作を改めてBDで鑑賞したが傑作。この映画には日本の美や文化、夏の風物詩である花火や味覚、物売など様々な日本特有の美しさを兼ね備えてる。風前の灯火である歴史ある町を訪れた男と街にいる姉妹の一夏を壮大な柳川を背景に瑞々しく描いた大林宜彦監督の永遠の名作。
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