油そば

黄昏の油そばのレビュー・感想・評価

黄昏(1981年製作の映画)
5.0
とにかく風景が美しすぎて陶然とする。インド古典音楽をバックにとにかく飛ばしてくれる最高の映像美。なのだが、単に綺麗な映画、というだけに終始するのではない。
悩める青年、というかもう心を病んでいるのだが、その彼の救いを求める心象、内面が自然の雄大さと崇高さに託されているかのよう。しかしその美しさは病んだ精神を癒してはくれないし、人間に寄り添ってくれることも実はないのだ。次第に自然は苦しむ彼を裏切るかのように、幻覚をも呼び起こさせる。自然を美しいと思うなどというのは人間の勝手でしかなくて、そういう意味では自然は徹頭徹尾残酷である。
恐らくこれは精神病院に入った青年の見た夢か回想なのだろう。話としては結局救われない。だからこれは自然の崇高さを賛美するような映画ではなく、自然とわれわれ人間の距離と断絶を描いたものだと言えなくもない。その距離こそを崇高さと呼ぶのかもかもしれず、その埋められない距離のなかにこそ美が現前する。

で、インド映画の巨匠というと日本ではサタジット・レイにグル・ダットと相場が決まっているかもしれないけれど、このアラヴィンダンももっと評価されてほしいところ。DVD化などされていないし日本では川崎市市民ミュージアムでたまにかかるのを待つしかない・・・というのが大変もったいないというか(そういうわけなのでこの作品は市民ミュージアムで2回目の鑑賞。いやどうしても忘れ難かったので)。今回あった特集上映で未見だった「黄金のシーター」「サーカス」も合わせてみたのだけど、自然への畏怖というか、そのへんの感覚は今のアピチャッポンなんかとも共振する気がするので、ほんとにもっと広く見られてほしい作家だと思う。
油そば

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