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ダウン・バイ・ローのTakaCineのレビュー・感想・評価

ダウン・バイ・ロー(1986年製作の映画)
4.2
「DOWN BY LAW」
タイトル文字からして格好良い!
刑務所のスラングで「親しい兄弟のような間柄」の意。

じわじわ来る味わい深い映画。
ジャームッシュ作品初鑑賞😉🔰

【映像と音楽がとにかく珠玉】
オープニングシーンが特に好きです😊♪ニューオーリンズの町並みをゆっくり横移動するカメラ。ロビー・ミューラー撮影の白黒映像が美しくて決して飽きません。トム・ウェイツの渋い歌声「Jockey Full Of Bourbon」が独特のアップテンポを奏でる不思議な心地よさ。背景では警察に捕まる犯罪者とゆったり歩く市民の姿が平然と撮されます。

こういった緩い感覚が面白い。
完璧なる美しい白黒映像、独特のセンス漂う音楽、奇妙でユーモラスな語りは、80~90年代当時(ミニシアター・ ブーム)は新しい表現と絶賛されましたね😉♪

ハッとさせられるのは、ザック(トム・ウェイツ)やジャック(ジョン・ルーリー)の眠っているはずの女たちが、実は起きていて目を開けた瞬間にシーンと静まる音楽。

男は盲目で何も見えず、女は見えない振りをして全てを分かっているような…その感覚が怖いなあ😌

若い頃のビッチ感満載のエレン・バーキンが素晴らしい。ザックの「靴はやめろ!」は笑える(その気持ちは分かります)。

【緩い世界観にコメディアンの笑撃】
映像も音楽も俳優も、みんなジャームッシュ世界を体現するツールです。その世界は現実の厳しさを鮮烈に描写するよりも、クールでスタイリッシュでユーモラスな世界に感じました。

職業俳優ではなく、ミュージシャン(ウェイツ、ルーリー)の起用も監督の意思を感じます。

リアルで重たい演技より、彼ら独特の柔軟な感性やシニカルな目線や音楽感覚を大事にしたいからではないでしょうか。

女たちは自己主張がはっきりしているけど、男たちは、なんとなくその場その場を取り繕って生きています。

しまいには女たちに愛想を尽かされ、その考えの浅はかさが原因で刑務所に入れられることに…

「あぁ、やっちまったなあ~」程度の鉄格子ごしの後悔、寡黙すぎて淡白すぎる描写は、どこかギャグのようにさえ思えます。

男たちの取っ組み合いさえ、単なるじゃれあいにしか見えません。

深刻さゼロです(笑)

ロベルト(ロベルト・ベニーニ)の登場で、更にコメディ色が濃厚になります。彼の飄々ぶりが最高です(ちょっとくどいけど)😆‼️

彼は、ザックとジャックの停滞した世界観をぶっ壊す起爆剤です💣💥

"I scream, You scream,
We all scream for icescream" 

大好きですね、このシーン😍♪
やけになって大声で合唱する男たちが、まるで子供のようで楽しい(なんなら参加したい😊)。看守たちが立ち去った後、3人でニンマリする瞬間がとても良いです。

母さんとウサギのエピソード、「タッ!」と空手チョップ。

変な文章ばかりの英会話手帳。

将来の奥さん(ニコレッタ・ブラスキ)との共演(一緒にダンスしていた女性)。

この時に流れる「It's Raining」(アーマ・トーマス)のレトロ感♪

最後までベニーニが光ってましたね‼️「宇宙人ポール」ならぬ「宇宙人ボブ」でしたけど😉

3人の男たちの珍道中が、馬鹿馬鹿しくてちぐはぐで、がさつで愛らしい(説明が難しいですね)。

【Take it easy】
「どっちだ?」
劇中、何回か出てくるこの質問。

どの選択(道)を選ぶか?
正解などその時は分からない。

起伏をぼやかした演出は掴みどころがなくて、主人公たちと同じように途方に暮れてしまいます。

左に行くべきか、右に行くべきか…

人生は選択の連続。迷うことばかりだけど、進むためには選ぶしかありません。失敗続きの男たちの諦めとも捨て身とも受け取れる行動は、心配で心配で少しも目が離せません。

本当は悲惨なはずなのに、鼻歌混じりで無計画に森を歩き回る感じって…??

無計画でもなんとか上手くいく姿は、水戸黄門の「人生楽ありゃ苦もあるさ」を思い出させます😃

それなら、深刻になるよりゆったり生きようぜ!
Take it easy !

本作はきっとファンタジーかなあと気付きました。目的を失い、路頭に迷う疲れた大人たちの心を緩くさせるファンタジー。現実世界を忘れさせる時間。

音楽もBGMのように心地よい(ジョン・ルーリー)。

映画も敢えてルールを気にしない緩い作りですね。
脱獄の場面を殆ど映さない、喧騒や犬の鳴き声だけで空間を表現する、細かい説明や会話は省く、ちょうど良い所に小屋やレストラン…6週間のオールロケ撮影で、たぶん低予算をクリアするために工夫された潔い省略が、映画にテンポ良いアクセントを加えている気がしました。

映画に流れるゆったりした時間がどこまでも心地よいです☕🚬

ラストの別れの儀式(交換)と拳を向けた挨拶は、爽やかな余韻とそこはかとない寂しさを醸し出していて秀逸でした。

僕は結構、この映画が好きになりました😊
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