矢吹

ダウン・バイ・ローの矢吹のレビュー・感想・評価

ダウン・バイ・ロー(1986年製作の映画)
3.9
オープニングが良すぎる映画だなあと何回見ても感じますね。Jockey full of bourbon にのせて、移動するカメラ。左の街にはポン引き。右の街にはDJ。どちらにも共通するものは、布団をかぶった女の隣に寝入る男。眠りにつく男の隣で、目を開く。実は女は起きている。オープニングロール、タイトルどん、ダウンバイロー。これはあれですよね、素晴らしいよね。
今がダメだから、未来にどでかい夢を見る男。現状に満足できず、頭を下げられない男。揃いも揃って、見事に騙されてお縄。牢獄で出会う2人の不協和音。そこにやってくる道化。かのベニーニ氏であります。イタリア人の彼はうまくコミュニケーションが図れない。語らないことを選んでいた中に語れない一人が入って、円滑になって行くコミュニティ。アウトロー2人と言葉足らずの道化の構図が、突如として、殺人犯と無実の男たちに変わるシーンは爆笑。うさぎ焼きのシーンもまあまあですが、泳げない男のイタリア語での独白のシーンの怖さったらない。これらのシーン一つ一つに、一貫していたカメラワークがピッタリとハマる。今作は終始、広く長く回すカメラで切り取る人間関係。多く描かれるのは、一人にフォーカスをしない、2人以上のやりとり。距離と世界の構築。アイテムを強調するみたいなことさえないのよ。オブジェクトのサイズがきわめて同一。牢獄という絵的な狭さを加速させる時間の経過を表す壁の傷。壁に描く窓。そこに注ぎ足される音。周辺の音による世界の広がり。映らない他の囚人の声。言葉の全てを落としてきた男のアイ、スクリームと大合唱。迫りくる犬の鳴き声。オンとオフの切り替えに見える間奏としてのセリフ。そして、作品の重心は個々の音にではなく、音楽にある気がするな。映画という音楽の側面。使う曲とかではなく、あらゆる音を含めた2時間の1曲。
ラストの別れ際と背中もメチャクチャ好きです。硬いフレームと離れていく男たち。ベッタベタな友情。それでいい。何もないという男と、何もかもを空想する男の左右の逆転。どっちが西か東かなんて、どっちでもいい。お前が選べ、俺は逆を行く。ユニフォーム交換ののち、それぞれの道を行く。プロットよりも、演出のかっこよさ。
なにより特筆しておくべきは脱獄史上最も拍子抜けな衝撃のカット。
「逃げたぞ、アメリカの映画みたいに」
嘘つけ!どこがアメリカみたいな映画だよ。前作、ストレンジャーにも通ずる、アメリカ的なものと関わる異邦人。こういうのは英語でなんていうの?
とりあえず、OPPの服が欲しい。ください。捕まって脱走すればいいのか。
ロベルトベニーニ特集を一人で楽しんでるところなんで、ジャームッシュときて、もちろん次はあれで行きたい。
矢吹

矢吹