ひろくん

機動警察パトレイバー2 the Movieのひろくんのレビュー・感想・評価

4.5
一見すると分厚い社会派ドラマのようでいて、実のところ「戦後日本という巨大な虚構の中にもそこに生きる現実の人間がおり、その先には不確かで行方は知れないが絶望には値しない可能性が備わっている」という非常にポジティブなメッセージに満ちた(個人的主観のうえでは)押井守の最高傑作。
ものすごく周到に作られており、脚本も演出もあまりにも隙がないので逆に語ることもそれほどないのだが、南雲しのぶと後藤隊長の交錯しない想いの先にある、苦くも受け入れざるを得ない結末の描写が僕はとても好きだ。南雲しのぶが柘植と自分の腕にかけた手錠が結婚指輪のメタファーだとわからないほど後藤も鈍感ではない。しのぶの想い、それを見る後藤隊長、全てを一瞬で理解させる見事というほかない演出で、ため息すら出る。
離散した二課のOVAメンバーの再結集、二課そのものの爆破、大幅にアニメシリーズから変更してリアリティ路線に寄せたキャラクターデザインなどなど、もうこれで押井守はパトレイバーを自分の作品としては終わらせるつもりなのだ、ということが伺える盛り上がり要素がてんこ盛り。キャラクターに表情で芝居をさせず、一挙手一投足の動作によって感情を現すアニメーションは、むしろエース級のアニメーターがここまで揃ったからこそ可能な表現だ。
残念ながらというべきか幸運にもというべきか、公開から30年経ってなおこの作品のメッセージはアクチュアルに響く。三島由紀夫が死ななければならなかったこの国の病(そしてこの作品で自衛隊がまさにクーデターを未遂に終えるに至った理由)はもはや完治不能なまでに進行しており、保守を名乗る政治家は陣頭指揮をとるフリをしながらアメリカに尻尾を振り続けている。そんな虚構の国でも、そこに生きる人間の現実は確かにあるのだ。それは逆説的に本作のテレビシリーズやOVAの存在をも肯定する結果となっている。

こんなすごいものを作れるのに、ぶらどらぶとか作るようになってしまうのは、なんでなんだろうな……。
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