Azuという名のブシェミ夫人

ビヨンド the シー 〜夢見るように歌えば〜のAzuという名のブシェミ夫人のレビュー・感想・評価

3.9
『映画が観たい』じゃなくて『映画を観なくちゃ』って焦るような気持ちになってしまう時がある。
人生で観られる映画は限られているから、どんどん観ていないものを観なくちゃって。
そういう時はあえて新しいものを観ないで、好きな作品を落ち着いて再見してみるようにしてる。
焦る気持ちで新しい映画を観るのって、なんか自分の中で違うって思うから。
そんなわけで、今回久しぶりにこちらを再見。
あれ、レビュー数がずいぶん少ないんだな・・・。
名作とかじゃないんだけれど、軽く観られるミュージカル仕立てで私は好きなのです。

歌手ボビー・ダーリンの半生を描いた作品。
名優ケヴィン・スペイシーが監督・脚本・そして自ら主演を務めて気合十分なこだわり様。
全編の歌を吹き替え無しでスペイシーが歌うのだけれど、これがめちゃくちゃ上手い。
こんなに歌えるなんて、天は二物以上与えるのね。
ほんとに演じたくて演じたくて仕方が無かったんだなと彼の心の高揚が伝わってくる。
私は初見当時、予習としてボビー・ダーリンの歌う映像を幾つか観たのだけれど、ビックリするくらい歌声や仕草、表情が似ていた。
だけれど、これを単なるモノマネショーとは呼べない位、ケヴィン・スペイシーは『ボビー・ダーリン』というキャラクターを自分のモノにしている。
素晴らしいエンターテイナー。

始まってすぐの『Mack the Knife』にオオッとなって、掴みはバッチリ。
そして、少しのファンタジーな雰囲気と共に彼の幼少期の回想へと誘導されていく。
ミュージカル映画って突然街中の人が歌い踊るでしょう?
それを現実と違ったって、脚色されたって構わないのだと作中で明言している。
『思い出は月光のようなもの。好きにしていい』んだってさ。
うん、OK続けて。

周囲をとりまく俳優陣もとても良いのだけれど、中でも“ブンブン”を演じるジョン・グッドマンが好き!
コーエン兄弟作品の時のぶっ飛んだキャラも好きだけれど、こういう人間味溢れるキャラクターもとても上手な俳優さんですね。
奥さん(後に離婚したけれど)であるサンドラ・ディー役のケイト・ボスワースも雰囲気が良く似ていて愛らしい♡
剣越えるの早っっ。(観れば分かる)
そして、少年時代のボビー・ダーリンを演じたウィリアム・ウルリッチ!
歌声とダンスと演技、ラストの彼は特に魅力的です。

20代前半の頃からをスペイシーが演じているが、とてもそうは見えないのはご愛敬。
スペイシー自身の渾身の自虐ギャグかと思う位にボビーのカツラネタをグイグイ押してくるのも愉快。
ストーリーとしては、まぁ歌手にはありがちな栄枯盛衰の波を描いたものですので、多少中だるみする部分はあります。
しかし、最後には微笑んで一緒に手拍子してしまう程愛おしさがこみ上げる。
尊大で傲慢で、だけど音楽と仲間達や家族を愛し、愛されていた『我々のクソ野郎』ボビー・ダーリン。
彼という人間を極めたケヴィン・スペイシーに乾杯。