女はバレエ。男はボクシング。そう決めつけられた時代に、バレエダンサーを目指したひとりの少年の物語。
演出家として100本以上の舞台を手がけ、トニー賞を2度受賞しているスティーブン・ダルドリーの初映画監督作品。
舞台のライブ感を見事に映画の中に取り込み、分かりやすいストーリーと名曲の数々、そしてジェイミー・ベル少年に魅了された111分だった。
1984年、イギリスにある炭鉱の町ダーラム。
音楽に合わせて踊ることが大好きな少年ビリーは、ある日ボクシング教室で偶然バレエを踊る女の子たちを目にする。
そして彼の才能を見抜いたバレエ講師のウィルキンソン夫人によって、ビリーはバレエダンサーへの道を歩み始める。
1984年といえば、当時の首相サッチャーが赤字だった炭鉱を閉鎖する計画を断行し、それに反対する炭鉱労働組合が大規模なストライキを起こした年だ。
炭鉱労働者の中でも反対派と推進派に別れ、スト破りをして働こうとする者に対し、脅迫や暴力が横行していた。
ビリーがバレエに出会ったのはそんな時代だった。
炭鉱で生まれた男の子は炭鉱で働く。それが当たり前。それ以外の将来、ましてバレエなんてとんでもない。そういう時代だ。
しかしビリーには才能があった。そしてそれを見抜いた人物がいた。何よりビリーには「踊りたい」という純粋で何よりも熱い衝動があった。
彼の言葉は、彼の感情は、全て踊りとなって放出される。
これほどまでに自分を表現する方法を持っていることが、羨ましいと思うくらいに。
そしてその言葉のように滑らかで、感情のようにまっすぐな踊りを、ジェイミー・ベルが見事に表現している。
彼の存在を監督が見つけたことが、この映画の奇跡だ。
父親と兄それぞれの葛藤と、ビリーへの思いには涙が止まらなかった。
もちろんラストシーンは素晴らしかったが、はっきり言ってビリーが成功するしないは関係ない。
これは成功の物語ではなく、成長の物語なのだ。
好きなことをしたいと思って生きてきたし、子どもにも好きなことをしてほしいと思って生きてきた。
でも生きれば生きるほど、その単純なことの難しさを思い知る。
それでも、やっぱりその単純で純粋な思いほど美しいものはない。
その美しさを改めて感じ、大切にしたいと思える映画だった。