優しいアロエ

ウンベルトDの優しいアロエのレビュー・感想・評価

ウンベルトD(1952年製作の映画)
4.5
〈カンヌのパルムドッグ創設はあまりに遅すぎた〉

 『自転車泥棒』に負けない傑作だ。重く閉塞的な作品が続いたロッセリーニに対し、ヴィットリオ・デ・シーカは時折差し込むユーモアに笑わせ、そして泣かせる。

 やはりデ・シーカが描くのは戦後社会の貧しい人々であるが、労働階級を映した『自転車泥棒』から一転して、老後年金の不足に苦しむ人間を映したのがこの『ウンベルトD』である。『自転車泥棒』が“持たざる者”同士の奪い合いを見せた一方、本作は“持たざる者”同士の健気な友情を見せてくれる。

 置物に収まらないイヌのはたらきも特筆に値すべきだろう。後ろ足で立つなどの演技を卒なくこなす「役者」として、そしてどう動くかわからない危なっかしさを備えた「動物」としても機能。これこそ今のイヌが見習うべきイヌにしかできぬ役割なのだ。その年のカンヌ最高賞は『オーソン・ウェルズのオセロ』に譲ったが、パルムドッグがこのときあれば、間違いなく受賞していたはずだ。

 また、撮影の美しさもロッセリーニとの差異だと感じており、印象に残るシーンに溢れている。頑迷な老人と若い女の物語は『わたしは、ダニエル・ブレイク』を若干想起させたが、ケン・ローチには是非デ・シーカのような映像表現に倣ってほしいものである。
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