天豆てんまめ

春夏秋冬そして春の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

春夏秋冬そして春(2003年製作の映画)
3.7
暴力的かつ過激な描写の作品の多いキム・ギドク作品の中で、とても異質で静逸かつ美しい作品。公開当時、カンヌ映画祭でグランプリを獲った「オールド・ボーイ」を押しのけて、その年の韓国の最も権威ある大鐘賞で作品賞に輝いた。

このタイトルが示すように、季節に添って映し出される山間の自然描写がまるで山水画のようでとても美しい。台詞も極限まで削り、まるでサイレント・フィルムのような趣きで、じっくりと映像美を堪能しつつ、ある僧侶の心の移ろいを堪能できる。キム・ギドクがこんな繊細で詩的な美意識に溢れていたのかと驚いた。

舞台は深い山間の湖に浮かぶ小さな庵。そこで老僧と幼い坊主の、春のある一日の情景から始まる。その後の坊主の一生を、春、夏、秋、冬と綴っていくのだが、坊主はかなり波乱に満ちた人生となる。幼くして業を背負う春、、恋から欲望と執着に囚われる夏、、怒りで完全に我を見失う秋、、全ての罪を受け入れる冬、、、坊主は老僧の教えと悟りとはかけ離れ、欲望や執着の末、身を崩していく。それを無常に見つめていく。

でも一番魅力なのは、そんな人間の業を年月が経っても変わらず見守り続けるような四季折々の自然のひたすらに美しい映像美。物語を超えて、美しい山間の寺にひっそり身を寄せて、癒されるような映画だ。キム・ギドクという監督の奥行きの深さを感じられる一篇だと思う。