びこえもん

アフガン零年のびこえもんのレビュー・感想・評価

アフガン零年(2003年製作の映画)
3.8
ガンダーラに行けばどんな願いも叶うとエキゾチックな理想郷を歌い上げた曲もあったようだが、史実上のガンダーラが栄えた地とはインディアではなく皮肉にもここ、こんにちのアフガニスタンである。

この映画は過酷な運命に翻弄された1人の少女を通して、タリバン政権に対するアフガン人民の怨嗟の声を悲痛なまでに描き上げている。そこは願いが叶うどころか、人が自らの望むように生きることなど到底できない理不尽と不自由に埋め尽くされた世界であり、あらゆる意味で想像を絶する価値観が支配する空間である。特に終盤など「とんでもないことだ」と感じる人が大多数だろう。

少女を通して過激派の現場を切り取るあたりはクメール・ルージュを描いた『最初に父が殺された』と通ずる所もある。しかし、共産主義とイスラム原理主義は相容れぬもの。神という絶対的存在の名を使ってあらゆる力を振りかざす所に、それとはまた違った方向性の底知れぬ恐ろしさが垣間見える。

だが、アラビア語を学び、実際イスラム圏を訪れ、モスクまで入って見学したことのある自分としては、この映画を観て「イスラム教ってやっぱりヤバいんだな〜」みたいな短絡的な結論に走らないでほしいと切に願う。そもそもアフガンの人民やこの映画を作ったアフガニスタン・イランの人々もムスリムである。作中のアフガン人民もタリバンを恨んでもイスラム教を忌み嫌っている人は誰一人としていない。この場合本質的問題が存在するのはそこではないのである。信仰というひとつのツールをいかにして使うか。これは土着の文化として神道を育んできた日本にも、かつて身に覚えのある話のはずだ。

作中のようなタリバン政権の全盛期はとうに終わったとはいえ、アフガニスタンは2020年現在もなお厳しい状況下にある。願わくば早く平和になってほしい。