むぶどん

月に囚われた男のむぶどんのネタバレレビュー・内容・結末

月に囚われた男(2009年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

月での資源採集任務のため、3年をその地で過ごしたサム・ベル。しかし帰還が近づく中起こった事故により、サムは意識を失う。なんとか拠点に戻った彼の眼に映ったのは、もう1人の自分の姿だった……。2人のサムの交流・クローンとしての彼らの生き様を描いたSF映画。
1人の人間のクローンとして生を受けさせられた彼らの、その存在と記憶に乱されていく様が気の毒。オリジナルは地球で普通に生活しており、クローンらにビデオレターを送ってくれていた妻・テスは既に故人であるという事を知ってもなお泣きむせびながら「会いたい」と漏らす姿は本当に切ない。現状を省みると、仮に地球に戻ったとしてもベル家に彼らの居場所はないわけだし……。旧サムがイケイケ音楽を止められても何度も流して新サムの話を遮るシーンはまさにガンギマリでしたね。まあでもあれほどまでクローンの感情を無視したむごい実態を知ればイカれたくもなるよね……。淡々と、時に彼らに寄り添いながら展開していく本作だが、そんな彼らが衝突しながらもルナ産業のクローン計画に抗い、最終的には先代サムと人工知能を持つ機械・ガーティの犠牲により世間にその実態が晒されるというストーリーラインは何かアツさを感じさせる独特な進みで面白かった。なぜガーティがあれほどまでにサムらに肩入れするのかはイマイチ分かりにくかったが、「人工知能がヒトの心を知った」という感じでよいのだろうか。テンプレだけど、だからこそ説明がなかったのかも。後は事実を知られたくないはずのルナ産業がサムらの拠点にわざわざ脱出装置を作っていて、それも特に今回のような緊急事態への対策をまるで打っていないのはちょっと気になった。まあでも何代もキレイに騙されてくれたんだろうから、雑な管理をしていたんだな……。音楽面は、未知の領域を表しつつ不安を感じさせ、ラストシーンでは安堵を与えてくれるメインテーマがとても好き。
2人のサムが自身の持つ記憶について懐かしげに語るシーンこそ、この映画の象徴と言える奇妙な切なさを十分に表現していると思う。地球に降り立った方のサムに幸あれ……幸あれ……と願いたくなる1作でした。