真田ピロシキ

1984の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

1984(1984年製作の映画)
2.5
一九八四年の映像化としてはレベルが高い。てっきり自由恋愛すら禁じられてる部分を強調して脚色するのかと思っていたらかなり原作に忠実。しかし映画化として面白いかと言うと退屈。小説をなぞってるに過ぎず、映像としても独特の面白さに欠ける。そして映像化したことでどうしても小説の情報量は削られる。4本の指を5本と言わせる説得力は薄まる。原作既読者には物足りなく、未読者には理解し辛い。これなら先に言ったような禁じられた恋愛を主軸にしたディストピアSFでも良かったと思う。一九八四年としては堕落したかもしれないが、別物の映画として語り継がれるものになったかもしれない。『ブレードランナー』が『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』から多くのものを削ぎ落として独自の続編を作られるまでに残ったように。そうなっても原作の価値は一切損なわれていないし忘れられてもいない。

トランプが大統領就任後に大売れしたように現代は一九八四年がフィットする時代となっている。日本の様々な政治・言論状況などあまりに合致し過ぎていて寒気がしたほどだ。今だからこそ再映画化の需要があるかもしれないが、その時は一九八四年を映画化するのではなくて一九八四年的なものの映画化で留めて欲しい。そもそもこれは小説として自分の頭の中で咀嚼し理解するのが必要だ。それを映画で分かりやすく誘導されるのは語彙を減らしたニュースピークで思考力を奪われることと変わりない。