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1984の文字のレビュー・感想・評価

1984(1984年製作の映画)
3.6
 言わずと知れたジョージ・オーウェルの小説『1984』の映像化作品。1984年に制作された。笑えない。
 合理主義を追求したディストピア的世界観がよく描かれていると感じた。諸個人が思考すること。考えることそれ自体が犯罪の世界。この世界は知識と権力が結びついていることがそれを可能にさせる。主人公スミスも歴史の改竄を生業としている。パノプティコン型の統治社会はしたがって人々を盲目的にさせる。
 古典主義時代のような体刑も行われつつ、矯正のために精神的な刑罰も行われる。愛情省などが存在することから、少なくとも理念上は精神に矯正が加えられ、規律に従うようになることを目指しているのだろう。しかしながら、矯正後は見せしめにされる。数多の人が思考犯罪で処罰され、見せしめになっているにも関わらず、思考犯罪は減らない。このことから、徹底した監視社会は逆説的だがうまくいっていないことでうまくいっているのではないだろうか。つまり、思考犯罪者を捕らえて規律を加える。規律を加えて矯正してもうまくいかない場合もある。しかしながら、そのことによってパターン化が行われる。よって、思考犯罪の率を下げることはできないが、コントロールすることはできる。したがって、もしかしたら思考犯罪そのものを抑え込むことができるかもしれない。この社会を生きる人々は生殺与奪権を常に握られているのである。まったく笑えない。生政治の行き着く先が描かれていたように思う。私たちが日常を生きているこの社会がオーウェルが描いた社会でないという保証はどこにもない。遠い昔でも未来でもなく、今の社会を克明に描いていると感じた。
 ところで、作品において民衆がビッグブラザーに向かって「B!B!B!」と叫ぶシーンが散見されたが、この「B」とは交換様式Bのことを指しているのではないだろうか、、。国家によって個人の生が規定されてしまう社会。それはすなわち、国家による収奪が支配的となっている社会である。ジョージ・オーウェルは交換様式論を分かっており、だからこそ権力のトップに立つ人物の名を交換様式Bにちなんで「ビッグ・ブラザー」としたのではないだろうか、、
 まったく笑えない恐ろしい話である。
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