アラサーちゃん

浮草のアラサーちゃんのレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
4.0
志摩の港町に、旅回りの一座がやって来た。一座の親方・駒十郎は、上演の支度もそこそこに、とある飯屋に足を向ける。じつは、何年も前にこの町に興行でやってきた駒十郎は、飯屋の女将との間に、一人息子の清がいた。息子の将来を思う駒十郎は、清に自身が父親であることを伏せ、旅役者の叔父として振舞っていた。しかし、一座の一員で連れ合いの仲であるすみ子にふたりの存在がバレてしまい、駒十郎は清ともすみ子とも関係が悪くなってしまう。そんな中、自分よりも息子を優先する駒十郎の態度が腹に据えかねたすみ子は、妹分の加代に清をたぶらかすよう頼み込む。

松竹の小津が、大映への借り返しに大映で撮った恋愛映画です。
小津映画では他に見ないような展開、演出に『はあ、こういう映画を小津が撮ったらこうなるのかあ』と感嘆のため息すら漏れます。
映像は美しいし、小津カットのなかにピチピチの若尾文子や、色っぽい京マチ子や、ちゃきちゃきの川口浩が存在しているのがとにかく不思議、でも新鮮でした。

小津が撮っているので爽やかにノスタルジックに観られるものの、よくよく考えれば内容はなんともドロドロ、撮る人が撮ったら何ともエグい作品になってしまうこと間違いなしですね。
私の苦手な主人公がいけ好かない映画で、『全ての元凶はお前だろうが!』って心の中で3回くらいは叫んだ。

そんな悲惨な展開の中でも、若尾文子と川口浩の爽やかピュアな恋愛物語がまだ救いをもたらしてくれる。ピュア・・・ピュアだよな?
若くて純粋そうに見える若尾文子の、川口浩への誘い方だったり。まるで不倫関係のような二人のやりとりやキスだったり。ピュ、ピュアだよな?

まあ、小津が撮っているとはいえ、根本が大映作品なので、こういう色気が孕んでしまうのは、仕方ないっちゃ仕方ない。

でも小津の映画でキスシーンが見られるとは思っていなかったので、ほくほく。
いつもちゃきちゃきの杉村春子が、珍しく控えめで塩らしい昭和の女で、なんだか意外でしたし、『お早よう』とかいろんな小津作品で見かけるボクが、今回も可愛らしかった。
『いい映画には三人のボケトリオがいる』というのは私のモットー?ですが、これもしかり、田中春男(吹越さんに似てるよなぁ)ら三人の男衆がいい感じに気抜けしていて、面白い。

シーンとして最高なのは、やはり雨の日。
あのシーンは最高ですね。
つるやの裏庭の葉鶏頭が、雨に濡れるカットからはじまる負のシークエンス。
道を挟んで、まるで威嚇し合う狼のごとく睨み合いながら罵り合う。このシーンの素晴らしいこと!
中村鴈治郎と京マチ子、凄みのきいたドス声で、べらんめえ口調の痴話喧嘩。小津映画には不釣り合いな程殺伐としたやりとりなんですが、小津独特の『文法破り』と言われる切り返しショットで繋ぐ様はもうお見事です。

小津の描く、優しく淡い日本の風景はこの作品ではとても期待出来ませんが、それとは別次元で評価したい作品、小津×大映キャストというだけで、内容そっちのけでとにかく大好きな作品なのです。