たく

浮草のたくのレビュー・感想・評価

浮草(1959年製作の映画)
5.0
「浮草物語」(未見)の監督自身によるリメイクで唯一の大映作品。
やっぱり小津監督で一番好きだなー。

宮川和夫の鮮烈なカメラが冒頭の灯台のショットからドキッとさせて、床屋のトリコロール3色の強烈さとか、ちょっとゴダールを思わせるんだよね。
小津映画で映像からこんな異様な感じを受ける作品は他にないね。

話は男女の痴情のもつれからの人情物語。
小津映画ってセリフ回しや動作が人工的で役者の自由を許さないので、基本的に誰でもそれなりの形になるんだけど(川口浩はこれに助けられてる)、その中でも鴈治郎の切なくも滑稽な感じ、毅然とした杉村春子、女臭さ丸出しの京マチ子の演技力のすごさが随所で光って素晴らしい!
若尾文子の小娘感、三井弘次の曲者感も印象に残る。

いま改めて観ると鴈治郎が女性に手を上げるシーンが多くて抵抗あるけど、まあそういう時代だったんだろうね。
京マチ子の嫉妬心がどんどんエスカレートしていくのが何度観てもハラハラするし、ついには雨のなか道を挟んで鴈治朗と罵り合うシーンの迫力ったらない!「わが母の記」冒頭はこのシーンへのオマージュだった。
ところどころで舞台の天井からハラハラと紙吹雪が舞い落ちるのも物悲しい。

終盤は涙無しに観られない。
最後の駅のシーン。タバコに火を付けるまでの流れで心の雪解けを表現する演出が秀逸すぎる。
日本酒をお猪口でクイっと美味そうにやるのがまたいいんだよねー。
全編どのシーンを取っても素晴らしく、小津映画のマイベスト・オブ・ベスト!
たく

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