暴力と破滅の運び手

カルロスの暴力と破滅の運び手のレビュー・感想・評価

カルロス(2010年製作の映画)
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それで、エッチなおじさんの睾丸はどうなっちゃったの?

第2部の途中までをざっくり言い表すと「世界に莫大な迷惑をかける部活もの青春映画」という感じ。どんなにプチブルをやめようとしてもプチブル的なものに回帰してしまう若者たちが「みんなでせーのでプチブルをやめようね! せーのっ!」でがんばったゆえの末路というか。そこにロックミュージックが掛かってくるのが…主に準備シーンと失敗シーンで掛かるのが…うん…味わい深いね…。
テロは何度も何度も失敗するし、実行されたテロに関しても被害の状況が記録映像の引用で語られるくらい。カルロスたちはアラブ圏や冷戦の利害の中で利用されるばかりで、そのうちその存在は共産国の中で押し付け合うようなものに成り下がる。このどこにもたどり着けないモラトリアムの感触は、何度も繰り返される飛行機の着陸拒否や入国拒否というモチーフによって否応なく増していく。
ここまで言うとものすごく虚無的な作品っぽいんだけども、見ているとあんまりそうではない。意地の悪さすらあんまり感じない。“やってる感”があるからかもしれない。部活みたいに見えてくる。海辺ではしゃぐシーンなんか強化合宿中の1シーンみたいにキラキラしてるし、OPEC事件で自分たちの要求が通らなかった時の悲しみようときたら夏の大会に負けた3年生のような感じなのである。
ただ第2部後半からはそういう雰囲気もなくなり、カルロスは「俺には利用価値がある」と吹聴して保護を求める。カルロスは実業家のフリをして身を潜め、妻との間には娘ができる。冷戦が終わると彼は“どの国にも受け入れてもらえない存在”となり、亡命先で軍事学校の先生をしながら娘を心配していると睾丸の病で倒れ、そのままフランス政府に引き渡されるのである。

最近ずっと洋ドラを見ているのでドラマみたいな作品だな〜と思いながら見ていたんだけど実際最初はテレビシリーズとして作られたのね。6時間ほとんど飽きることがなかったのは本当にすごい(きちんと1部ずつ休憩をしたからかもしれないが)。肝要なのは映さないということ。テロ活動は何にもつながらなかった暴力のように見え、テロリストはウイスキーとタバコのみで動き回る幽霊のよう。ドラマの重きはどちらかというと人物の容姿や表情のゆるやかな変化のほうにあり、それを必要なだけの時間を使って見せている。“活動家”カルロスは“兵士”になったあと、モラトリアムの学生のような状態を経て“有名人”となるが、その代わりに組織を追い出されて“傭兵”となり、最後には男性性の残骸を纏いつかせた“幽霊”となる。その流れを役者の身体が心配になるほどの体型変化や顔立ちの変遷で表現している。特に顔立ちの表現はすごく、冷戦終結後には一目ではカルロスと同定できないほどに何かが落ちてしまった顔が見られる。最後の方は“性的魅力だけが妙に残ったおっさん”としか言いようのない何かになってしまうし、それも睾丸を患って消えてしまうのである。最後の方はカルロスの睾丸が心配で「サスペンスが睾丸に集約している…」「マクガフィンが睾丸…」という感じになった。よい映画でした。