つかれぐま

未来世紀ブラジルのつかれぐまのレビュー・感想・評価

未来世紀ブラジル(1985年製作の映画)
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【夢と悪夢と現実と】

テリーギリアムの悪魔的センスが、全体主義国家という悪夢を脳内に植え付けていく。現実を見ずに夢に逃げれば、そこに待っているのは悪夢。

全体主義国家という設定でありながら、本作にはヒトラーのような分かりやすい独裁者やその影すらない。ギリアム監督は「権力者が支配しているわけではなく、自分の幸福しか考えない国民一人一人がこの体制を支えている。体制とは僕ら自身」と語っている。ここが本作の一番怖い所だ。

主人公サムは、偶然に出会った女性ジルに自分の「夢」を託す。その過程で目にしたのは、体制に犠牲を強いられる一般市民の苦しみ。デニーロ演じるタトルのような反体制者にも出会う。普通の映画ならば、ここで主人公は現実に目覚め、体制に戦いを挑むところだが、本作のサムはむしろその逆。そんな厳しい現実に背を向けて、ジルとの「夢」に逃げ込んでいく。これはギリアムの言う「自分の幸福しか考えない国民」に他ならない。

そんなサムには『ブレードランナー』のデッカードのような結末は許されない。望み通り「夢」に囚われる(永遠に)という因果応報なバッドエンドが最高だ。