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未来世紀ブラジルのpikaのレビュー・感想・評価

未来世紀ブラジル(1985年製作の映画)
4.0
SF映画好きなら避けては通れない名作の一つなので10年以上前から見るリストに入れてはいたけど2作見たギリアムが全く好きになれなかったのこれまで避けていた今作を「1984」の類似作品を調べるとまず一番上に出てくるってことで挑戦してみたらめちゃくちゃ面白くて今まで避けていたのはなんだったのかーと脱力した。しかし手放しで最高!とは言えない。あー!もうちょっと見たかったのにー!と終わる作品はいやらしくも渇望を刺激されて本当の意味での満ち足りた充足感に包まれるが腹十二分目はどうだろう。ここで終わってもキレイに終われるといったエンディングが3回くらいあるし全編濃いのにこの長さだと圧倒されすぎてめちゃくちゃ疲れる。丹念に作れれた世界観が物凄い情報量なので絵を見るような見応えがあるが静止画じゃないのにそれをぶっ通しで見続けると脳みそがもたない。見ている間は素晴らしい!ワンダフォー!と感動しているのに見終わると拍手する気力がもうないってのは終わりよければすべて良し論から見ると勿体なくはないかと思わされる。でも映画は一度だけではない。繰り返し見ることに耐えられる、いや繰り返してこそ魅力を発揮する類の映画なのだろう、見るたびにジワジワと好き度が増していきそうだ。

主人公の目覚め→朝ごはん身支度自動機械に「フィフス・エレメント」を思い出したらイアン、ホルムも出てる笑。ベッソン、わざとだろ笑。ちょー好きです。ここらへんを筆頭に前半部分はコマ送りで見たくなる。
ディストピア物のサラリーマン描写はあるあるなのかオフィスシーンは「審判」のようでめっちゃ好き。上司がいないと映画見てるってギャグがかなり面白い。
レストランの下りがめちゃくちゃ面白い。写真付きペースト料理や番号注文、美容整形の会話もキャラも爆破テロが起きても平然とランチを続ける流れも全部ツボ。
バトル家のくだりもタトルとの邂逅も修理コンビの流れもヒロイン探しも全部面白くて、次に何が起きるのかとワクワクしつつめっちゃ楽しい。

ディストピアをユーモラスに仕上げたところが凄く良い。これが本当のブラックジョークという感じの皮肉がめちゃくちゃ上手いしシンプルに面白い。誰にも真似できない稀有な魅力のある世界観。ここまで作り込んだ徹底ぷりは見事。クライマックスの不条理にグルグルと行っては戻る繰り返しの流れも一見うんざりしてしまいそうだが集中を途切れさせない演出の上手さが飽きさせないし設定のディストピア社会を展開で表現していて上手い。

キーアクセントになっている夢のシーンがいかにも夢ですといった具合に挿入されるところが惜しい。わざとだろうか。伏線としては機能していたし、SF世界と夢を区別して見せることは必要ではあるから好みの問題かもしれない。
前半の主人公は世界に飲み込まれずただ一人淡々としていてすごく良かったんだけど後半はイマイチ好みじゃなかった。主人公むちゃくちゃじゃん。無罪と主張しているが事実ではあるってところをもう少し掘り下げて欲しかった。社会に対する理不尽さを誤認逮捕や化け物、ヒロインの扱いで表現しているんだろうけどもう一歩欲しかったな〜。序盤はやり手みたいだったのにあんなにヤケにならなくてもと思ってしまった。うーむ。
今更見て於いてなんだが今作が影響を与えているせいか今見ると既視感に見えてしまうところも気になった。ラストは「1984」が元ネタ云々関係なく今見るとベタに見えてしまう。
ただ娯楽性を生むための衝撃云々ではなくそここそに作品の意図があるんだという意識は見て取れる。
画面の情報量に加えて演出やドラマにもあれこれぎゅうぎゅうに詰め込んでいるので直後は疲労でいっぱいいっぱいだが、後から思い返すとあれも良かったこれも良かったとまた見返したくなる。元気満タンのときに見るべき映画かも。
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