柏エシディシ

エルマー・ガントリー/魅せられた男の柏エシディシのレビュー・感想・評価

3.0
1960年?いやいや、誇張でなくまったく色褪せていない。
現代アメリカに限らず、それこそ世界中の盲信に囚われる人間の弱さと危うさを、今もなお的確に射抜く事の出来る問題作。

福音派のラジオ伝道師として成り上がる元セールスマン。
口八丁手八丁のペテン師であり、どこか本当に愛や信仰にも誠実である様にも感じさせるエルマー・ガントリー。
スコセッシのピカレスクドラマの主人公達の雛形の様な複雑な男を名優バート・ランカスターが活き活きと演じています。
堂々とした体躯と朗々と響く声を存分に活かして聴衆に演説する姿は痛快に感じさせられると共に、時に滑稽に、時に恐怖を感じるさせられる。オスカー受賞も納得の怪演。

エルマーをはじめ、主要な登場人物たちが聖俗混濁としており、単純な人間に描かれていない事が返って本作の作品としての揺るぎない普遍性の要因になっている様に思います。
エルマーのあざとい手口を看破しながら、その人間臭さに魅了される新聞記者や、一度は策略を謀りながらも情を捨てきれない娼婦(シャーリージョーンズがとっても魅惑的!!)など。
そして、人間という複雑な生きものが、いとも簡単にひとつの盲信に囚われてしまう恐ろしさ、容易さもしっかり描いており、今も変わらないアメリカの姿や、現代の我々の姿を思い起こさせられ、背筋が寒くなります。

最後のエルマーの台詞。
私たちが子供の様に考えるのを止める事が出来るのは、いったい何時になるのだろうか?
柏エシディシ

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