亘

ミツバチのささやきの亘のレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
4.8
1940年スペイン・カスティーリャ地方。6歳の少女アナは姉イサベルと映画『フランケンシュタイン』を見る。イサベルから「フランケンシュタインは精霊の仮の姿で実在する」と聞いたアナは精霊探しを始める。

内戦終結直後フランコ体制下のスペインを描いた作品。製作当時も政権批判が難しかったことから今作は政権批判をメタファーとして織り込んでいる。例えば純粋で寡黙なアナはスペインを、意地悪でアナをよく騙す姉イサベルはフランコ政権を表している。それに家庭内での父と母の微妙な距離感やカスティーリャの寒々しい荒涼とした大地、ミツバチの集団行動の様子も国内の分断やフランコ政権の国際社会からの孤立、全体主義の批判とされる。蜂の巣をイメージさせる窓とかハチミツ色の光とか画は美しいけど全体的に淡々として作品から喜びとか明るさは感じられないのは、フランコ政権下の鬱屈とした雰囲気と重なるのかもしれない。

歴史的背景やメタファーを知らなくても、今作はアナの純粋な目から見た世界をそのまま映し出した素晴らしい作品として楽しめる。アナの行動を追うと、子供の頃の何か漠然とした恐怖とか広い世界への好奇心を思い出せるような気がする。アナは内気で純粋で、姉イサベルの悪戯や嘘にことごとく引っ掛かりからかわれてる。それでもアナは、好奇心旺盛で1人で怪物探しにもいくし、持ち前の優しさで負傷兵の手助けをする。イサベルは単に妹をからかってるだけだけどアナは自分の知る世界を広げたいと思っている。もしかしたらアナの方がしっかりしているのかもしれない。

終盤、負傷兵の介助を知られたアナは失踪。病気になって帰ってきて口を聞かなくなる。政権批判のメタファーという視点から見ると、これはスペインがフランコ政権になり言論弾圧されたことを表しているのかな。一方子供の視点で見ると、親にずっと黙っていたことがばれ、逃げたけど1人だとどうしようもなく帰ってきてバツが悪いということかな。アナが精霊に語り掛けるラストは、ようやく彼女が口を開いて希望が感じられるような気がした。

印象に残ったシーン:アナがイサベルに質問をするシーン。アナが荒野の小屋に訪れるシーン。イサベルが倒れるふりをしてアナが騙されるシーン。アナが精霊に話しかけるラスト。

余談
・原題"El espiritu de la colemna"は「蜂の巣の精霊」という意味です。

・このタイトルは、監督が考えたものではなく詩人モーリス・メーテルリンクの著作からとったものだそうです。
亘