幕のリア

ミツバチのささやきの幕のリアのレビュー・感想・評価

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)
5.0
幼き頃、両親と交わした確かな会話の記憶はあるだろうか?
怒られたことや注意されたことや、いわば事務的なルーティンが殆どなのは、私だけではないはず。
もっともお婆ちゃんとなると話は別なのだが。

娯楽のない田舎町に映画がやってきた。
"フランケンシュタイン"
人間でも怪物でもない存在。
姉妹はそれを精霊だと言う。

姉妹が交わす対話。
大きな瞳が瞬きもせず。
言葉を重ねる会話ではない。
無邪気とも違う無軌道だが確かな意思を持った行動。

どのキノコに毒があるのかないのか、父親と交わされる会話はそれだけ。
毒のありそうなキノコは食わない、そう父親は言う。

母親は、精霊について語る。
良い子には良い精霊が、悪い子には悪い精霊が現れる。

まだ見ぬ存在、見えそうで見えない未知の存在。
それが自分の近くにあるはずだと知った幼き妹アナには、もう他事は目にも耳にも入らない。
底の見えぬ井戸。
どこまでも続く線路。
取り憑かれたように、探すでもなく、逃げるわけでもなく、未知の存在に近づこうとする。

一心同体かのようだった姉はイザベラは、黒猫の首を絞め、引っ掻き傷から流れ落ちるクリムゾンレッドをルージュのごとく唇に這わせる。
大人に一歩近づいた姉は禁断の悪戯を犯し、アナは一人精霊を探し求める。

あまりに美しい絵と幽玄な詩情をたたえた傑作。震えに震えた。

2019劇場観賞63本目
幕のリア

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