【遺作にして最強のリメイク】
※本レビューはnote創作大賞2025提出記事の素描です。
【上映時間3時間以上】超長尺映画100本を代わりに観る《第0章:まえがき》▼
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撮影に始まり、スター俳優の契約などの細部の決定までほとんどひとりで行い究極の大衆映画制作に命を注ぎ込んだことで知られているセシル・B・デミルは、現場でもモーセのような導く存在として振る舞っていたらしい。
1923年に旧約聖書を映画化した『十誡』を自らの手でリメイクした『十戒』は、彼の遺作に相応しいほどの威厳を放った集大成となっている。『十誡』では、旧約聖書の物語が現代にまで続いていることを示唆するように2部構成となっている。その影響もあり、特撮の面白さが煌めくモーセの海割りは物語序盤の30分付近で提示される。逆再生とレイヤーの重ね合わせによるシンプルな特撮ではあるものの、今観ても色褪せない迫力がある。一方で、この場面のインパクトが強すぎて、その後のスペクタクルが尻つぼみに思える。
リメイク版では、この問題点が解決されており、ラスト30 分でモーセの海割り、そしてシナイ山の麓で信仰を忘れ醜態を晒すヘブライ人へ怒りをぶつける場面を持ってきている。テクニカラーで撮影され、当時としては最先端のエフェクトで実装された炎の柱はまるでアルブレヒト・アルトドルファーの世界が現実のものになったかのような迫力を与える。白黒サイレント時代には実現できなかった紅に染まる川は圧巻である。
また、30年の時を隔て進歩したカメラワークによりダイナミックな人間の運動を捉えている点も魅力的である。たとえば、建設現場で巨大な石を嵌め込む場面がある。油を敷く要員であるヨケベデの紐が石に挟まる。圧死の危機に瀕するが、現場監督は彼女を轢き殺してでも石を嵌め込もうと労働者たちに「そのまま突き進め」と命令を下す。奴隷の男が仲裁に入ると、現場監督は激高し、彼を死刑にしようとする。それを見かねた女は現場を飛び出し、追手を振り払うように労働者がひしめく空間を抜けてモーセに懇願する。顔を正面から捉えたショットと俯瞰のショットを織り交ぜ、命の危機をスリリングに描いている。
文盲であっても宗教の物語を開く役割として絵画やタンパン、ステンドグラスが使われてきたが、映画における模範的アプローチをセシル・B・デミルが開発し、その技術はウィリアム・ワイラー『ベン・ハー』やジョン・ヒューストン『天地創造』へと受け継がれたのである。