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善き人のためのソナタのAsskickerのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
4.0
『善き人のためのソナタ』

原題:『Das Leben der Anderen:他人の生活』。
善き人のためのソナタは劇中に描かれるピアノ曲

あらすじ
シュタージ(国家保安省)の局員ヴィースラーは、劇作家のドライマンと恋人で舞台女優のクリスタが反体制的であるという証拠をつかむよう命じられる。ヴィースラーは盗聴器を通して彼らの監視を始めるが、自由な思想を持つ彼らに次第に魅せられ……。

「私のための本だ」というラストの言葉に涙。

まず一言、ドイツの監視国家社会恐ろしい。プライベートという言葉が存在しない。でもこれって今の社会でもそうだけどパソコンやスマホで私生活が覗かれているとスノーデンが述べており、80年代も2021年もなにも変化がないんだなって感じた。「1984」のビッグブラザーや「リベリオン」「Vフォーヴェンデッタ」に出てくる独裁政権のような社会国家を想起させられた。

ドライマンが「善き人のためのソナタ」をピアノで演奏するシーンで、「この曲をほんとうに聴いたのなら悪人にはなれない。革命は成就しない」という台詞が一番印象に残っているし、この映画の鍵でもある。冒頭の映像から大尉は悪役というイメージが強く根付いたが、彼は忠実に国家の使命を果たそうとする「善い人」であるのは間違いない。

「善き人」まずこの定義を明らかにすると、国家に忠誠を誓い国家のために働いているヴィースラー大尉は「善き人」である。対称に大臣やグルビッツのように野心の為だけに働いている人間を映し出すことで、善き国民であろうとするヴィースラーを引き出すことができる。でも面白いのが、ドライマンにとってヴィースラー含めるシュタージは“悪”だけど、冒頭のことを含めラストまで見ていくとヴィースラーって一貫して“善”なんだなって感じた。

この映画って東ドイツの監視国家社会について描いた堅苦しい映画と思いきや、ドラマ性が強く、「愛」をテーマにして物語が展開していくと感じた。アパートに盗聴器をしかけて反体制派の証拠を掴むために耳を澄ますけど、聞こえるのは二人の愛や芸術、思想そして彼らの人生を語る二人の姿。


驚いたことにヴィースラー大尉役を務めたウルリッヒ・ミューエは旧東ドイツ生まれでかつてシュタージに監視されていた経験を持つ。
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