takanoひねもすのたり

善き人のためのソナタのtakanoひねもすのたりのレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
3.7
東西で分断されていた頃のベルリン(東ベルリン)国家に忠誠を誓う国家安保局の局員ヴィースラー大尉が、反体制の疑いがある劇作家ドライマンと女優クリスタの監視の任務につき、24時間体制で盗聴を始める。
会話を盗聴しながらやがてヴィースラーは彼らの世界に共鳴し始めるのだが……というスリラー物。

ソビエト連邦が占領していた東ベルリン。
少しでも反体制が疑われれば監視、盗聴、そして密告、恐怖政治ともとれるし相互監視を引くことで人と人が組むことを阻む心理的な牽制、個人情報つつぬけの恐ろしさ。

エモーショナルな演出や劇伴が抑えめながら、ひとりの男の、ある意味で『合法な覗き見』によって国家への忠誠が揺らぎ、ある行動を促すまでをきちんと見せてくれるいかにもドイツらしいきっちりした作り方。

劇作家達へのシンパシーなのか女優への恋なのかははっきりさせないまま(あるいは両方)であるのが良い。
また、ある行動のあとのヴィスラーの境遇も過剰な説明や台詞がなかったところも良い。
『壁が崩壊した』
というその一言で場面が変わるというところもうまいと思う。

『善き人』というのは単純にヴィスラーを指すのだと思うが、東西統一後にドライマンが出版した本には幾人もの『善き人』が描かれているのではないかと想像したりする。

そしてドライマンがヴィスラーの行動を知り理解し、彼の姿を離れた場所から見守るという『会わない』という演出も良い。
それがあって『これは私のための本だ』というヴィスラーの台詞の余韻が響く。

良い作品でした。