【ストーリー】
舞台は1984年(冷戦下)の東ドイツ。
そこでは、社会主義が掲げられ国家保安省(シュタージ)による、反体制への弾圧が横行し、密告の嵐が吹き荒れていた。
そんななか、国家への忠誠を誓う、シュタージ局員のヴィースラー大尉は、反体制の疑いのある、劇作家、ドライマンと同棲中の恋人、クリスタへの盗聴を開始した。
-------以下ネタバレ注意-------
しかし、ヴィースラーはドライマン、クリスタの考え方にだんだんと、惹かれていき、あるとき、ドライマンが弾いたピアノ曲『善き人のためソナタ』を聴き、完全にヴィースラーの心は揺れ動き、いつしか、彼らを影から支える役割に変わっていく。
一方、ドライマンはそんな事はつゆ知らず、ある計画の実行に取り掛かっていた。その計画は、〈西ドイツへ東ドイツの現状をさらけ出す〉ということであった。具体的には記事を書いて西ドイツ側へ伝えるというこである。ヴィースラーの影からの助けもあり、その計画は成功を収める。
東ドイツ側(シュタージ)はその記事を書いた人物が、ドライマンであると嗅ぎつけ、恋人のクリスタを捕まえて、尋問を始める。折れたクリスタはドライマンがその記事の当事者であるということを、さらけ出し、決定的な証拠の場所も吐いてしまう。そして彼女は罪悪感から車に轢かれて自殺をしてしまう。一方ヴィースラーはドライマンのその証拠を隠蔽するために動き出し、成功に至る。
しかし、ヴィースラーの動きに不信感を募らせていた、旧友であり、今は、上司のアントンにばれて、ヴィースラーは引退まで、地下で雑務をする事になってしまった。ドライマンは数年後に、ヴィースラーのおかげで自分の計画が成功した事を知ったのであった。
ベルリンの壁が崩壊した頃、ヴィースラーはある一冊の本に目を留める。それはドライマンが書いた、『善き人のためのソナタ』であった。その本の最初の一ページにヴィースラーに対しての感謝の一言が添えてあったのだ。
終わり
【メタファー】
1.《善き人のためのソナタ》
~このピアノ曲を聴くと誰もが善人になる~
先ず、この映画の最も強調したい部分は、〈権力や人間の根にある悪の心に打ち勝つものは、人間の生命の喜びそのものである、芸術である。〉という事ではないか。
ヴィースラーの心が大きく変わったのは、あのピアノ曲を聞いた場面であろう。その前後にも彼は、ドライマンや彼を取り巻く環境から、芸術そのものの感化を受けていたのである。ヴィースラーの周りには、アントンを始め、様々な権力を不当に使う輩どもがいるにもかかわらず、彼が大きく変わることができた、という点を考えると、如何なる悪環境であっても、芸術というものは、侵されることのない、人間生命の本質だといえる。
2《権力の強大さ》
~友情をも、愛情をも、簡単にぶち壊す事のできる強大な力~
クリスタは女優であるはずだが、厳しい言い方だが、自らのために、ドライマンさえ犠牲にしてしまった。
アントンは只々、もっと権力を手にするため、他人を平気で足蹴にしてしまう。
ドライマンを裏切ったクリスタや、保身のため旧友のヴィースラーさえ裁いたアントンに共通するのは、強大な権力に屈服したということではないか。