湯林檎

善き人のためのソナタの湯林檎のレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
4.3
これは凄い!!観れて良かった!!
思想と政治、芸術の在り方全てを満遍なく描いた名作!!

とりわけ20世紀において大きな戦争があった時、アメリカやドイツは映画や演劇をプロパガンダとして利用した。しかし、この映画では本質的に芸術の持つ素晴らしさは政府のためにある物ではなく1人の人間の人生を映し出す表現法であることを肯定していながらも特定の政治思想や制作側の明らかな思想が分かるようなシーンがなかったのが絶妙だった。


⚠️以下はネタバレです。未鑑賞の方はここで読むのをストップすることを"強く"お勧めします。





結局映画の最後までヴィースラー大尉とドライマンはじっくりと対話することはなかったけど最後にドライマンが発表したタイトルロールの作品(小説)を手に取って「これは自分のための本」と言って終わるところは映画的ながらも自然ですごく良かった。

あとはドライマンの恋人の女優が政府家の愛人をやっていたり薬物中毒なところも芸能界の生々しさをちゃんと描いていてなかなか面白かった笑

この映画そのものは素晴らしいけどそれとは別に音楽は素晴らしい物であるのと同時に危険な物でもあると感じた。作中では主人公のヴィースラー大尉が劇作家達の考えに魅了されていく姿を描いているけど、もしこれが映画でなく実際の出来事として起こったならば左翼の裏切り者として歴史に名を残すことになるだろう。
悪い例ではヒトラーはワグネリアン(作曲家ワーグナーの熱狂的なファン)であることは有名で若い頃に「リエンツィ」を観劇して政治家を志したという説もある。そしてご存知通りこの青年が後に世界的な独裁者として様々な人々を苦しめる事態になってしまった。

芸術による心の浄化というのがこの映画のテーマだ思うけどそのテーマは映像として観える物だけでなく"もし"の場合また別のテーマが見えてくるだろう。
湯林檎

湯林檎