みおこし

日の名残りのみおこしのレビュー・感想・評価

日の名残り(1993年製作の映画)
3.7
カズオ・イシグロ原作。時は第二次世界大戦前。イギリスの大邸宅ダーリントンで執事として働くスティーブンスは、仕事に一切妥協を許さず自分のことは後回しにしてでも務めを全うして来た人物。そんな彼の半生、そして同じ職場のミス・ケントンとの交流を描いた秀作。

自分の気持ちを押し殺してプロに徹する、という要素に昔からヨワいので本作も心震えました...!
一家の執事として自らの人生を捧げるスティーブンス。主人、同僚からの信頼も厚いが、彼が見てきた世界は全て屋敷の中での出来事。初めてと言っても過言ではない、ミス・ケントンに対する想いを決して言葉にはせず、自分の胸の中にだけ留める彼の姿に胸打たれない人はいないはず。極めてプラトニックなこの純愛の描写は、とても日本人的だなとふと思ったのですが、それはカズオ・イシグロ氏が日系の方であるというのも関係しているのでしょうか。

自分の時間などほぼ皆無、生涯主人に仕える身としての日々。現代日本に生きる私たちからすると想像を絶しますが、その生活の中にもわずかばかりの光はあるわけで。決して自由ではないけれど、激動の時代を執事として生きたスティーブンスの生涯は幸せだったに違いありません。しかし、文字通り雨の日も風の日も働き、悲しみや孤独を隠して給仕する彼を見ていると、もし彼がもっと自分のための時間を持っていたらどんな人生だっただろう、とつい胸がいっぱいになります。

アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの落ち着いた佇まいといい、彼らとは立場の異なるクリストファー・リーヴやヒュー・グラントの抑えた演技といい、作中に漂う古き良き英国の高貴な空気感が本当に素敵。それにしても、テーブルの食器の配置、お客様の為の湯たんぽの準備、庭の整備まで、ありとあらゆる業務を「慌てずに急いで」取り組まねばならないスタッフの気苦労を考えると、気が遠くなりますね...。イギリス特有のあの荘厳な雰囲気は、そんな細かい部分にさえ心配りを忘れない、人々の日々の心がけの賜物なんだろうなあ、と。

終盤、バス停でのアンソニー・ホプキンスのあの眼差し。思い出すだけで目頭が熱くなります...!まさに英国を代表する名優ならではの圧巻の演技でした。執事役から、食人博士、やんちゃな雷の神様のお父さん役まで本当に幅広いですね!!(笑)
『日の名残り』という邦訳も完璧すぎる...!
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