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彼女が消えた浜辺のtoriten45のレビュー・感想・評価

彼女が消えた浜辺(2009年製作の映画)
4.1
こういうの好き。身近に感じるテーマを扱いながらも地味になりそうなのに、緊張と緩和がバランスよく配置されているので、最後まで集中が途切れることありませんでした。演出も控えめなのに、計算し尽くされているかのよう。

ベルリン国際映画祭で監督賞を獲得していて国際的にも評価の高い作品なのだそうです。イランのアスガル・ファルハーディー監督作品を鑑賞するのは本作が初めてでしたが、他の作品も観てみたいと思いました。

和気あいあい旅行を楽しむ雰囲気が、ガラッと変わる。思いもよらない事実が判明したり、ウソを重ねたり、思わず口を滑らせたり、バレたり。ただ、悪い人は1人も出てこないです。「いやーこういう人いるよなー」って思ってしまうような“自分事”に近い次元でストーリーは展開されます。

身近に感じられるからこそ、人間関係の脆さ、曖昧さ、危うさに感情移入しやすくなっていて、おせっかい焼きなセピデー(主人公)にムカムカしたり、ノリの悪いエリにハラハラしたり、すぐにカッとなる男どもに哀れさを感じたりと、観ているこちらの感情がユサユサと揺さぶられししまいます。

そして、この不安定さを象徴するかのように日中の空は薄暗く、海は波が荒くて波音も途切れることがない。この人間の手では制御できない自然現象でさえ演出の一環に感じさせてくれるのです。感情移入が深まった分だけラストは複雑な余韻を残すことでしょう。

ムカムカさせてくれたセピデーを演じたゴルシフテ・ファラハニはエキゾチックで美しく魅力的ですね。『パターソン』('16)では天然でキュートな妻役を演じ、『タイラー・レイク』シリーズ('20〜'22)では凄腕の美しき傭兵リーダーを演じるなど、マルチに活躍していて目が離せないです。
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