実に手堅く作られた作品だ。細かなところまできっちり計算してある。逆に言えばくどい。もう少しスタイリッシュにもっと削れるところを削ることも出来ただろう……と惜しまれる。ひとりの少年が溺れ、ひとりの女性が消える。その消えた女性をめぐるいざこざが、登場人物たちがついていた嘘や意外な真実を明らかにする……というスジで、しかしその「嘘」が誰からの悪意に依ってからも放たれたものではない(つまり、ミヒャエル・ハネケ的ではない)という、監督の人間に対する透徹した眼差しを伺わせる作品だ。サスペンスとしてはもっとデーハーに魅せることも出来たと思うので――例えばもう少し音楽に頼るなどして――そのあたりの地味さが難しいとも思う反面、しかしその地味さを「渋さ」と捉えることも出来ると思うのでもどかしい。なにはともあれ侮れない監督だと思う。人間の善意がもたらす悲劇を描いているからなのか、不思議と後味は悪くない。