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探偵物語のsのレビュー・感想・評価

探偵物語(1983年製作の映画)
3.0
併映が『時をかける少女』という角川映画黄金期、当時18,19歳でまさに人気絶頂の只中にいた薬師丸ひろ子と、絶頂期から晩年期の狭間にいた松田優作の“探偵”物語。甲高い声でまだ純粋な心を持つじゃじゃ馬娘の女子大生と、人生の早い段階で何かを喪失し、未来に期待をすることもなく無心で探偵仕事に向き合う33歳の男(私じゃん)。真逆の性格で歳も離れた凸凹コンビが協力して生まれる何とも言えぬグルーヴ感、化学反応が面白い。

ジャケット写真の印象からして薬師丸ひろ子が仲間の歳上男性と事件を解決する中で禁断の恋をする系の話なのだろうと思っていたが監督が根岸吉太郎だったのでやはりそっち系だった(『狂った果実』は2年前だった)。しかしここは角川映画のアイドル映画なので薬師丸ひろ子には際どい事やらせながらもギリギリのところでやめさせる。薬師丸ひろ子の男運のなさ、報われなさには85年の相米慎二のぶっ飛びアイドル映画『雪の断章』の斉藤由貴の境遇がちょうど重なりなんとも切ない気持ちになってしまった。

一方松田優作はというと、晩年期へ向かう過渡期ならではの渋い表情や男臭さ、30代男性の脱力した様や虚ろさ加減、アンニュイな雰囲気がたまらない。そしてなんと言っても松田優作が時折見せる優しさには男らしい力強さがある。女性を守ろうとする包容力、それを自分の役目とする強い意志。「一人は寂しいが甘えちゃいけない時だってある」という台詞はまさに。絶滅危惧種のこういう男性を大切にしたい。
探偵としてのキャラは弱く事件の解決やここぞという見せ場はすべて薬師丸ひろ子に持っていかれるが最後の空港のキスシーンでは私に残された僅かな“ピュア”を一つ残らずかっさらっていく優作なのであった……
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