ギズモX

スピード・レーサーのギズモXのレビュー・感想・評価

スピード・レーサー(2008年製作の映画)
5.0
映画『グレムリン』のクライマックス。
主人公ビリーがグレムリンのストライプと死闘を繰り広げている最中で、置き去りにされたギズモはビリーに加勢するため、おもちゃのカートをかっと飛ばしてデパート中を駆け回った。
ギズモの頭の中ではTVで見たレース映画のセリフが再生される。
"あんた、イカすわ!"
"君もイイ女だぜ!"

その一連の出来事はまるで現実と幻想が混じり合ったかのようで、そしてそんなカオスな夢を1億2000万$という破格の製作費と果てしない愛で再現したのがこの『スピードレーサー』だ!

『マトリックス』のウォシャウスキー姉妹が最初に見たアニメ作品、タツノコプロ制作『マッハGoGoGo』のハリウッド実写化作品。

《レーサー家の次男、スピードは生まれながらのレース狂。
彼はレースで死んだ兄の意思を受け継いでレーサーとなり、地元のサーキットレースで優勝する。
その翌日、大企業のオーナーが一家をスカウトしに来るが、スピードはそれを断るとオーナーは衝撃の事実を彼に告げる。
大企業を含む巨大企業グループは大昔からレースそのものを牛耳っていて彼らが利益を得るように仕組まれており、レース界は大企業による不正と八百長で腐敗していたのだった!
全てを知ったレーサー一家は大企業の妨害工作を受けながらも謎の覆面レーサー、レーサーXと協力して愛するカーレースを守るために過酷なレースに挑むのであった!》

CGを最大限に駆使した超レインボーな色彩と、カーテューン全開な作風が独特な世界観を放つ異色作。
全編通して繰り広げられる超スピードなカーレースは『F-ZERO』なNintendoレースゲームの雰囲気に近く、言語や文字、人種などありとあらゆるものがごちゃ混ぜでアニメ作品を実写化したというよりかは、"アートでドラッグな60年代のアニメの世界に実物の人間が存在している!"
その他にもピラニアやギズモ号、敵キャラのオイル攻撃などなど『デスレース2000年』やジョーダンテ作品のオマージュが盛り沢山!(※ちなみに巨大企業への反逆というテーマ性は『グレムリン2 』以降のジョーダンテ作品と共通している)

脚本もウォシャウスキー姉妹が手がけていて、馬鹿げたテイストに目が行きがちだが、実は『マトリックス』同様に己のアイデンティティや信念を問う、宗教的で哲学的なメッセージが散りばめられてある。

「自分達にとってレースとは信仰と同じなんだ」

「レース界のことなど関係ない」
「大事なのはレースが我々を変えることだ」

「我々はただ走る為にマシンに乗るんじゃない」
「何かに駆り立てられるからだ」

この映画はあまりにも個性的すぎた。
監督の趣味がオーバーヒートしまくった。
撮影中は監督と俳優との間で一悶着あったらしいし、公開された当時はシリアスなリアル路線が主流だったから評価は散々。
制作費すら回収できない悲惨な結果で終わってしまった。
それに加えてCGをより革新させたのは翌年に公開された『アバター』だったし、映画のラストでレース界が変わったようにハリウッドが変わり始めたのは10年くらい後の話だった。

でも、レーサーXが最後に放ったこのセリフには、そんな悲劇すらも超えて輝き続ける、監督や俳優達の熱い意思を感じる。

「間違いでも、私が選んだ道だ」

また、そのゲームチックなカーチェイスやカートゥーンな世界観は失われることなく、後の『怒りのデスロード』や『レディープレイヤー1 』そして『マトリックスレザレクションズ』『バービー』にへと受け継がれていると思う。

マッハ号がゴールした時の興奮は唯一無二!!!
空前絶後の大傑作です!!!

"ステキよ、スピード!"
ギズモX

ギズモX