アズマロルヴァケル

ロストパラダイス・イン・トーキョーのアズマロルヴァケルのレビュー・感想・評価

3.6
爪跡を残してくれる大人の映画

・感想

私としては先に白石和彌監督作品としては「サニー/32」や「牝猫たち」、「孤狼の血」といった作品を観ようかと考えていたのですが、せっかくならばと敢えて白石和彌監督の初期の作品を観てから現在の作品を観ようと思いこの『ロストパラダイス・イン・トーキョー』を観賞しました。


映画自体は知的障害の兄である黒崎実生とその弟の幹生、そしてデリヘル嬢のまりんとして仕事をしつつ地下アイドルとしても活動するFala(ファラ)こと西村里子との奇妙な共同生活が描かれていました。

しかし、前半は前振りであり、後半から本格的に3人が狭いアパートのなかで生活するのでどうも若干本題に入っていない感じもなくはないものの、何故か自然とこの社会の片隅で生きている男女の物語に目が離せなくなり、だんだん物語のテンポを忘れて最後まで観ることが出来ました。

主要人物を演じる3人の演技も当時小林且弥さんと内田慈さんが26歳、ウダタカキさんは30歳なのですが3人とも自然で安定した演技をしており、特にウダタカキさんは実際に自閉症の障害者に取材をしていることもあって純粋に落書きをしている様子から幹生が里子を怪我させたときに興奮状態になってしまったときの表情までリアリティの高い演技を見せていました。

内容としては若干の突っこみどころも含めてなかなか爪跡を残すような内容であり、最初に里子が実生との夢である『アイランド』を夢見ていることに関してはこの映画に登場するドキュメンタリー作品を撮るマーニー酒井や中川のように何を言ってるんだろう?と思ってしまったが、次第に里子の考えも本編が進むうちに分かるようになり、だんだん肩入れしたくはなってくる。

また、後半に実生が10年前に引き起こした事件の被害者である少女の父親にドキュメンタリーの撮影班や里子、実生と共に幹生が代表して被害者の家に行って謝罪するシーンがあるのだが、そのときのシーンがこれまたエグい。父親が幹生や実生に暴力を加えたりする一方で当の被害者は家の二階に行ってただただその様子を聞くしかなく、終いには二階の窓を開けて実生の顔を見詰める描写はただただ心を抉られる。そしてそのときの実生の感極まって大声を出す表情もまたエグい。

ラストに関しては、里子と幹生が寝ていた姿で何かを察して家を出ていったのかなぁとは思うのだが、タイムラグが少しあったとしてかなり現実離れしたラストだったのでちょっと笑ってしまった。このラストが唯一の突っこみどころだったのだが、これがまた爽快さと清々しさがあって悪くはなかった。

この映画で初めて白石和彌監督作品を観たのですが、今後もこの監督の作品を観ていきたいと思います。