yoshi

海外特派員のyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

海外特派員(1940年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ヒッチコック監督作品を無性に見たくなる時があります。
CGで何でも表現できるようになった昨今の作品を見ると、演出の巧みさというものを実感したくなるからかもしれません。

ヒッチコック監督の作品は、現代の作品と比べると物足りないかもしれませんが、どれも創意工夫が感じられる作品ばかり。

この作品は英国人のヒッチコック監督が渡米して2作目ということでアメリカの観客をあっと言わせたかったのでしょう。
監督の演出手腕を堪能できる作品だと思います。

ドイツの台頭で戦争の危機が迫っていた1939年、ニューヨークの新聞記者ジョニー(ジョエル・マクリー)は欧州へ派遣されます。
戦争回避の鍵を握る大物政治家を追い、やってきたアムステルダムで、暗殺現場に遭遇する。

犯人を追跡し、意外な事実を突き止めたことからジョニー自身も命を狙われるようになる当時の世相を反映させた政治を題材にしたサスペンスです。

とはいえ、全然お固い内容ではありません。追う、追われるのサスペンスです。

主人公がいつの間にか事件に巻き込まれる形の話がヒッチコック作品には多い気がします。

この作品の主人公は、自ら進んで事件に飛び込んで行くのが珍しい。

そこに平和運動家を装う事件の黒幕フィッシャー(ハーバート・マーシャル)と、彼が溺愛している娘キャロル(ラレイン・デイ)の親子の物語が絡む。

娘が愛している男性が、実は自分の敵となる人物ジョニーであることに気づくフィッシャー。

本当は憎むべき悪人にも関わらず、娘の幸せを考えて苦悩する彼の姿が、子を持つ親の立場としては、胸に迫るものがありました。

また、現実に第二次世界大戦に突入前の政情を反映してか、ラジオ局で聴衆に向かい、ジョニーがナチスを批判するというラストが国家高揚のためのプロパガンダのようになっており、これもヒッチコックらしくないように感じました。

とはいうものの、これが第二次大戦前に作られたのか?と驚くほど、練られたサスペンスの見せ場が多く、ハラハラドキドキ。
さすがはヒッチコック先生!と効果的な演出に唸る場面が多い。

型がヒッチコックらしくないとか、そんなことはどうでもよくなってしまいます。

2時間のなかに大きな見せ場が3つほどあって、それがどれも視覚的に印象に残ります。

❶1つ目はヨーロッパの平和運動家ヴァン・メア(アルバート・バッサーマン)が、群衆の黒いコウモリ傘に包まれたアムステルダム市庁舎の大階段で暗殺される、有名な「傘の森」の場面。

写真撮影と称して暗殺者がカメラの脇に小さな銃を構えて、正面からヴァン・メアを暗殺。

群衆の中を逃げる犯人。
しかし犯人の姿が直接映る訳ではない。
群衆のさす傘が動いて、犯人が逃げる道筋を教えてくれるのが実に洒落ています。

そして、この後、カーチェイスが始まるのですが、こちらもなかなかの迫力。
当時の車はスピードが出なかったのか、若干コマ落としでスピードを上げています。

❷次に、カーチェイスの末に犯人たちが逃げ込んだ風車小屋でのサスペンス。

人気のない風車小屋が並ぶ不穏な風景。
セットと広い背景の境目が分からないように合成しています。

犯人の逃げ込んだ風車小屋に潜むジョニー。
ここの風車小屋内の縦の空間を最大限に活かした人の動きが素晴らしいです。
見つからないように上から下に移動し、また戻って行くジョニー。
彼のトレンチコートが風車小屋の歯車に巻き込まれるところもあってハラハラします。

❸最後は、事件の全貌が明らかになり、黒幕のフィッシャーをアメリカに連れていく飛行機が、海上でドイツ軍の攻撃に合い、墜落する場面です。

アメリカに向けて飛ぶ飛行機の小さな窓からカメラが機内に入って行く。
ブライアン・デパルマ監督は「MI-1」でTGVの列車の窓で応用していました。

飛行機がドイツ軍艦に撃墜され海に墜落。
飛行機が墜落するまでをパイロット視点でワンカットで見せる場面が凄いです。

墜落した飛行機の残骸にしがみつく乗客。
波が高いなか、救援を待つジョニー達。

この辺りは、今となっては、結構真似されている表現ではないかと思いますが、当時の観客はきっと度肝をぬかれたのではないかと思います。

荒れる海のバックはスクリーンプロセスの合成とはいえ、手前に映る実際に使った水の量も半端ない。

これ以外にも、ホテルや展望台など高さを活かした面白い場面があって、本当にアイデアのたくさん詰まった作品。
ところどころクスッと笑える箇所もある。

昔の映画なのでセリフ回しが早く、陰謀の真相を追うのが少し大変ですが、追う、追われるという視覚的なサスペンスだけで充分楽しめる。

ヒッチコック監督の観客を楽しませる創意工夫には、今見ても唸る場面がたくさんあるなぁと感心させられました。
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