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不機嫌な赤いバラの一人旅のレビュー・感想・評価

不機嫌な赤いバラ(1994年製作の映画)
5.0
ヒュー・ウィルソン監督作。

元大統領夫人テスと彼女を警護するシークレットサービス、ダグの対立と和解を描いたコメディ。

配役・脚本・演出、どれを取っても秀逸なコメディの秀作。我が儘な未亡人・テスをシャーリー・マクレーン、テスに振り回されるダグをニコラス・ケイジが演じる。この二人が完璧にハマり役で、二人が繰り広げる激しい舌戦に笑いが止まらない。

ニコラス・ケイジはこのテの“他者に振り回される気の毒な男”が本当に良く似合っている。立場上、テスに逆らうことは許されないため、テスの我が儘で自己中心的な言動にも黙って耐えるしかない。我慢の限界を迎えてつい反発心を露わにすると、テスから現職大統領に即刻連絡がいく。大統領からの鬼電(声:ヒュー・ウィルソン監督)により手厳しいお説教を受けるダグの哀れな姿が最高に面白い。

シャーリー・マクレーンも大女優らしく落ち着いた演技で魅了する。笑顔など一切見せず、憮然とした表情で「ゴルフに行くわ!」「雑誌を拾って!」「ピクニックに行くわ!」「帰るわ。やっぱり帰らないわ!」「出て行って!」と命令を下すのみ。我が儘な言動ばかりが目立つが、夫に先立たれ寂しい老後を過ごすテスの深い孤独が伝わる演出も絶妙。特に、居室でひとり昔の録画ビデオを眺める姿はとても切なく、シークレットサービスの面前で見せる強気な態度とは正反対の哀愁に満ちた姿が印象的だ。

物語はテスと彼女に散々振り回されるダグの対立と、ある事件をきっかけに二人に和解が訪れるまでの過程を描いている。ある事件というのが本当に大した事件でもないし、二人の関係と心情に変化を与えるための道具に過ぎないが、なかなか緊迫感があって良かった。物語も充分楽しいのだが、何と言ってもテスとダグの魅力的なキャラクターと、二人が織りなす日常のちょっとしたやり取りがクセになる作品。シャーリー・マクレーン&ニコラス・ケイジの演技力とヒュー・ウィルソン監督の演出センスに脱帽の、90年代コメディの秀作だ。
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