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さすらいの女神(ディーバ)たちのericoのレビュー・感想・評価

4.0
過去の重さに打ちのめされ、孤独の闇に絶望する瞬間は、それぞれの人の内側で常に起こっている。でも傍から見ればそれは、凪いだ海にほんのひととき現れる漣にすぎないものだ。

そういう僅かな捩れを開こうとする映画で、どのシーンにも豊穣な物語が息づいている。デリバリーのピザにはしゃぐ中年のダンサーたちをうんと引いたカメラが捉えると、故郷から離れて暮らす彼女たちの浮かれた熱っぽさと寂しさ、どちらもが妙に切実に伝わってくる。緻密な計算ゆえに成り立つ、饒舌な「何でもなさ」を贅沢に愉しむ。

ガソリンスタンドの女性と他愛ない会話を交わしながら、人を殺しに行くんだという言葉をマチュー・アマルリックが放り込むときの空気の裂け目に、彼の過去がふと覗く。まあ、その物語は結局宙吊りのままで、意図は分かるけどちょっと消化不良だな、というのも正直なところだけど。

いやでもどのシーンも愛おしい、良い映画でした。マチューが踊り子の付け睫毛を取り、彼女の真っ赤なルージュたっぷりのキスを受けるシーンは白眉。胡散臭く格好良い様は「チャイニーズブッキー」のベン・ギャザラのようだし、ラストでバーに佇む様子は「ラヴ・ストリームス」のカサヴェテスみたい!あぁそうだ、この映画はカサヴェテス映画と通ずるところがあるかも知れないね。
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