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アイム・ノット・ゼアのGreenTのレビュー・感想・評価

アイム・ノット・ゼア(2007年製作の映画)
3.0
名優たちのアンサンブルが楽しめる映画だと思いました。

ボブ・ディランのモキュメンタリー/モキュ・バイオグラフィー?って言っていいかと思うんですけど、ボブ・ディランは監督・脚本のトッド・ハインズにとっては「時代ごとに七変化していくアーテイスト」だったらしく、6人の俳優たちがボブ・ディランの違う側面を演じています。

一番評判が高かったのが、「エレキギター時代」を演じたケイト・ブランシェットで、ボブ・ディランのくりくり頭で男性とも女性ともつかない、両性具有のような変わったキャラがすごく印象深い。

しかし、オープニング・クレジットで一番最初に名前が出てくるのは、「フォーク時代と後にキリスト教の神父時代」を演じたクリスチャン・ベイルで、やっぱ男優の方が先に名前出るのか〜と思っていたんですけど、この人はケイト・ブランシェットにかなり食われてしまいましたが、すごい名演だったと思います。

私が一番感心したのは、「子供時代の憧れ」を演じたマーカス・カール・フランクリンという黒人の男の子。キャラは11歳なんだけど、本人が何歳なのか不明なのですが、子供なのに大人みたいな演技をする。

トッド・ハインズは相当なディラン・ファンか、もしくはアーティストとしてのディランにすごく興味があったのか、ディランの曲やインタビューや、様々なリサーチをして時代ごとの顔を描いているらしいです。私は全くボブ・ディラン知らない人なんですけどさすがに黒人ではないことくらいは知っているので、子供時代の描写が黒人なのは、ディランはこういうジプシーのような生活に憧れていたのかな?って思いました。

この子供のディランは、先人たちのリズム&ブルース?に感銘を受けてそのパクリみたいのを演奏しているんですけど、「自分の世代の歌を歌え」って言われて、自分が見ている世界の歌を歌い出す。

するとそれが、ベトナム戦争の反戦運動が高まるアメリカの若者たちの心に響いて、プロテスト・ソングの生みの親みたいに祭り上げられる。

市民権運動の団体から賞を貰ったりするんだけど、それが「政治的に利用されている」と感じ、だんだん酒やヤクに溺れるようになり、「エレキ時代」に突入する。

アーティストの実話見るといつも思うんですけど、やっていたことが評価されると、それにがんじがらめになり、本人はもう違うものに移行したいのに、「プロテスト・ソングをなぜやめるんだ?」ってファンに責められる。劇中で「色んなことを期待され、だけどハッキリ何を期待されているのかはわからないのに、なぜかその期待を満たしていないと罪悪感を感じる」ってセリフがあって、「なるほどな〜」と思いました。

で、フォークソングを期待されているフェスティバルで、ゴリゴリのディストーション・ギターでロックを演奏し、自分の熱狂的なファンの期待を敢えて裏切る、それをやらないと気が済まなかったボブ・ディランにすっごい親近感を感じました。

ヒース・レッジャーは、ボブ・ディランのプライベートな側面を演じていて、このキャラが一番現実のボブ・ディランに近いキャラだってウィキだか iMDb に書いてありました。

リチャード・ギアは、後年のボブ・ディランなんでしょうけど、これも少年時代と一緒で、ファンタジーが入っているキャラだなあと思いました。社会の腐敗に対して声を上げる人は殺される、ボブ・ディランがアーティストとして辿った道のりのメタみたいなお話でした。

ベン・ウィショーは、ボブ・ディランのインタビューでの言葉を語る役で、ディランのポリシーというか精神性を表現する役なのかなあと思いました。

ドキュメンタリータッチに、フォーク・シンガー仲間だったジョーン・バエズがモデルの女性(ジュリアン・ムーア)にインタビューするシーンを入れたり、かと思えば、アンディ・ウォーホールの「ファクトリー」で有名だったイーディ・セジウィックがモデルの女性(ミシェル・ウィリアムス)との関係はドラマ化したりなど、1人の人を6人の俳優が演じ分けるだけでなく、こんな手法の伝記映画って観たことない!思いました。
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