あゆみ

トゥモロー・ワールドのあゆみのレビュー・感想・評価

トゥモロー・ワールド(2006年製作の映画)
4.5
近未来ディストピアSFなんだけど、「人類に18年間子どもが生まれていない」ていう設定だけがSFで、その設定によって生まれたはずのディストピアは、この世界が進んでいっても起こるんじゃないかと思える。都合よくぶっ飛ばせたり躊躇いなく憎める悪役としてナチスを登場させる映画が多いのに、自分たちをナチスとして描いていて、英国政府と軍隊が移民を檻に入れて運搬して収容所で虐殺したり、ホームグロウン型のテロリストが武力蜂起を先導してるところとか、話はフワフワしてるのに作り方が尖っていた。

話は本当に頼りない進み方で、主人公はお酒と煙草が手放せなくて出勤前に買ったコーヒーにさっそくウィスキーを入れてるような人なんだけど、20年ぶりに(誘拐されて)出会った元奥さんに危険な話に巻き込まれるも奥さんはすぐ死んじゃうし、なんだか状況もよくわからないうちに不可抗力でテロ組織にも政府にも追われる身になるし、あるのかないのかわからないサンクチュアリを目指すために来るか来ないかはっきりしない迎えの船まで行こうと、言葉の通じない案内人と妊婦を連れて紛争地帯をうろうろする…という、嘘やろと思うくらいの不安さになっている。主人公の仲間も、テロ組織のリーダーの元奥さん→旧知の年上の友だち→元助産師のおばさんテロリスト→言葉が通じない移民のおばさんと見る間に頼りなくなっていくのに、合間に痙攣みたいな暴力描写が挟まるし要所の緊迫した状況でガッツリした長回しが入るので、不安さと相まって焦燥感がすごい。なにが凄いかって、後半で世界でたった一人の赤ちゃんが生まれて、テロリストも、移民も、軍隊も、みんな赤ちゃんを見つめて手を伸ばすから戦闘が止まる、ていうシーンがあるんだけど、お母さんと赤ちゃんが通り過ぎると後ろですぐ銃撃戦が始まってたから、希望が生まれてもこの世はそんな簡単によくなったりしない、ていう冷静さが凄かった。

あとは動物がたくさん出てくるのが印象に残った。犬はどんな立場の人も連れていて、猫、小鳥、豚、鶏、シマウマ、ラクダとかも横切っていたし、置物や壁紙の模様まで動物だった。ディストピア物の荒廃した街に羊の群れがいきなり出てきたりすると、「世界の主導権を握るのは最早人間ではない」感がすごくある。言葉の違う人間が檻に入れられてる横で犬が吠えてたり、大臣の部屋の窓から大きな豚の風船が見えたりするのは皮肉しか感じないんだけど、猫の頭をさわりながら友だちと話をするようなシーンはすごく落ち着いて、やっぱり動物がいるだけでちょっとほっとした。主人公は最初に至近距離でテロが起こった時の耳鳴りがずっと続いているんだけど、「その耳鳴りは耳の中の細胞が死んでいく今際の音楽だ」ていうセリフがあって、本当にそのセリフみたいな映画だった。