牛猫

トゥモロー・ワールドの牛猫のレビュー・感想・評価

トゥモロー・ワールド(2006年製作の映画)
4.0
18年間人類に子どもが産まれなくなった世界を舞台に、たった一人の妊婦を守ろうと男が奮闘する話。

観始めてから鑑賞済みだったことに気付いたけど、それでも最後まで観てしまった。

子どもがいなくなったことでここまで荒廃してしまうのかって程の荒廃っぷり。収容所やゲリラやレジスタンスなどの描写も第二次世界大戦下のホロコーストを思わせるリアルさ。しかし、少子高齢化が深刻な社会問題となっている今、完全なるフィクションとも言い切れないのが恐ろしいところ。社会情勢が不安定になっていくと、人々の心も荒んでいくというのは説得力があったし、この世界に一気に引き込まれた。度々登場する動物たちの存在も癒されたし、荒んだ世界と対比が効いていて良かった。
人種や貧富の差で立場がはっきり分かれた徹底したディストピア。こういった世界観が好きな人には刺さるだろうと思った。

そして何よりキャストが豪華。ジュリアンムーアの思い切った起用の仕方も清々しい。

そんな陰惨とした世界に現れた一人の妊婦に希望を見出し、あるものは守り抜こうとし、あるものは利用しようとする。クライヴオーウェン演じる主人公のテオも、あからさまにヒーロー的なキャラクターとして描かず、半ば巻き込まれるような形で逃避行を共にしていくわけだけど、ワンカットを多用しているせいか、観ているこちらも同行しているような臨場感だった。
色々な人に協力してもらいながら目的地を目指していく様が過酷な状況の中にも人の正義や善意みたいなものが感じられて心動かされた。
赤ちゃんの声が聞こえた瞬間にそれまでの銃声や爆撃の音がピタッと止まって、みんなが動きを止める一連のシーンがたまらなく好き。

正直ストーリーはなんてことないけど、この世界観、アイデア、設定全てが噛み合った近未来SFの傑作だと思った。
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