けんたろう

静かなる決闘のけんたろうのレビュー・感想・評価

静かなる決闘(1949年製作の映画)
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煙草をバカスカ吸う医者のおはなし。


六年間も想い続けてきた女に意を伝えられない主人公藤崎(三船敏郎)や、愛する者の意を解する事が許されない美佐緒(三條美紀)の名状し難き苦しみに、心が潰れてしまいそうだった。なんたる不幸。神はこの世にいないのか。

だがやはり黒澤明だ。人間を信じている。
不幸が藤崎を聖者たらしめたと云うが、それは偏に彼の人間性に依るものであろう。どれだけ理不尽に苛まれても、なお良心を絶やさずにい続ける人間性に依るものであろう。
嗚呼、哀しき闘いになお勝ち続ける逞しき精神の、なんと美しいことよ。

この世の中で誰にも気付かれずにひそりと独り、静かなる決闘を続けたる優しき猛者たちに、どうか幸多からんことを。