キューブ

捜索者のキューブのレビュー・感想・評価

捜索者(1956年製作の映画)
4.5
 正直、全体的な作りを見ると古臭い感じは否めない。いかにも昔の映画にありがちな、馬鹿馬鹿しい場違いな会話。そして室内のシーンでの代わり映えのしないカット。
 だがこの映画が素晴らしいのはそのテーマ性にある。まずジョン・ウェイン演じる主人公イーサンのキャラクター。彼はそれまでの(上から目線とは言え)誰にでも優しいカウボーイ達とは違い、原住民に対する偏見にまみれている。彼らの名前を聞いた途端に目の色が変わり、銃撃の手を絶対に休めない。死体にすら平気で銃弾を撃ち込む、完全なアウトローだ。そんなイーサンをジョン・ウェインは誰にもまねできない迫力で演じきっている。
 イーサンがマーティンと様々な場面で対立する構造も面白い。お互いの信念を守り通すために、とあるシーンで2人が対峙するとき、それはただのプライドのぶつかり合いでは無くなっている。そこには体に刻み込まれた憎悪と復讐心しかない。50年も前にこれほど重厚なテーマを取り扱っていたことを考えると、ジョン・フォードには先見の明があったことになる。
 だが先進的とはいえ、いくつか先住民に対する拭いきれないステレオタイプな描き方が気になる。強いて言うならば、「人種差別に反対する」北部の人間を主人公にしなかったのは懸命だろう。あえて偏見の残る南部の人間を主人公に持ってくることで、根本的に人間の中に根付く差別意識を浮き彫りにすることに成功している。
 当時は見向きされなかったとしても当然だろう。一見すると軽快な昔ながらの西部劇だが、隠れた深淵はテーマは今だからこそ理解されるものだろう。
(13年1月17日 BS 4.5点)
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