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歩いても 歩いてものninekoのレビュー・感想・評価

歩いても 歩いても(2007年製作の映画)
4.0
『海街diary』をレビューした時、僕は「とても著名な俳優ばかり起用しているのに、映画の中のキャラクターが実在感を持ってそこにいるように見える」といった旨のことを書いた。『海街』において、それは作中のキャラクターへの感情移入を容易にし、観客が無理なく(リアリズムからは少しだけ離れた、やはり寓話的ですらある)作品の世界に入り込むことを可能にする効果を上げていたわけだけれど、同じ是枝監督が作り上げた本作において、それはほとんど反対の方向に働き、またしても抜群の効果を上げている。

あの素晴らしい『桐島、部活やめるってよ』が「学校」という空間における日本的な息苦しさを見事にカメラに捉えていたとすれば、ここにおいて執拗に映されるのは「家族」という共同体における日本的な息苦しさである。いや、家族が人間社会が作り得る共同体の最小単位であることを考えれば、ここでキリキリと描き出される歪みとか違和感は「日本的」といった前置きを必要としない、より普遍的なものかもしれない。誰も憎まれていないからこそ、負の感情が行き場を失って物理的にも比喩的にも「狭い」場所に滞留してゆくのを肌で感じたことのある人間ならば、この映画は身の毛もよだつような恐ろしさに満ち満ちているように感じられるはずだ。それでも映画はラストにかけてひとつの希望を提示しようとするものの、それまでの完成度に比べるとどうしても間に合わせ感が否めない。老夫婦が微妙な距離を保ちながら階段をゆっくりと登るあのカットで幕が引かれていたならば......と、どうしても惜しくなってしまう。

蛇足すると、↑のような内容だけに劇場で(ブラックユーモアと勘違いしたのか)ゲラゲラ笑っている中高年の客がそれなりにいたことはとてつもなくストレスになりました。前回行った時の客も酷かったし、早稲田松竹、出来ることならもう行きたくないです。