一人の人間の死による波紋が「普通」の家族に広がる。家族の普遍性を描きつつも、さらに思いテーマが下支えする。
「死」に対する固執はないが、だからこそリアルに見える。早くに長男を亡くした家庭の中の小さな軋轢とそこに次男の訳ありの嫁というファクターが混ざり、さらなる化学反応が起こる。
樹木希林の真に迫る演技が静かな狂気を思わせる。飄々とした態度の裏に黒い塊が沈殿している。長男の死という呪縛から逃れられない老いた母。優秀な長男の死を後悔する父。そういった両親の期待と失望を一手に引き受ける子供たち（と命を救われた人）。一人の死から家族のバランスが崩れる様はどこか虚しい。
長男の死という非現実的な土台にも関わらず、これほどまでにリアルで普遍的な家族像を描けているのはやはり、随所で家族のありきたりな会話や仕草を描写しているからだろう。子供を甘やかすおじいおばあ、ごちそう（映されるごはんのおいしそうなこと！）、調理中の他愛ない会話。それにしても、実家に帰ったら何でみんな昔の写真を引っ張り出すんだろう？
いろんな描写がありきたりな「日本の夏休み」を表現していて、不思議とノスタルジックになり微笑んでしまう。是枝監督に「家族」を描かせたら、右に出るものはいないと思う。
それゆえ、「幸せな時間」と「残酷な瞬間」が同居している。微笑んでいると途端にどん底に落とされる。
「怖いのよ、人は」人間は無意識のうちに何らかの呪縛に縛られているのかもしれない。そしてそれを人に向けているのかもしれない。
